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改正児童福祉法が成立、来年4月施行
〜危機的な少子化を反転させる切り札となるか〜
●  強力な突破口として期待
  11月26日、参議院本会議において、改正児童福祉法が全会一致で成立した。保育所の待機児童ゼロに向けた切り札ともいえる「保育ママ」事業や、里親制度の拡充、児童養護施設における虐待防止策など、わが国が直面している危機的な少子化に対し、強力な突破口として期待される法律である。施行は、来年4月1日となっている。
  思えば、この法案は政治の荒波に翻弄されてきた。最後まで支持率の低迷していた福田前内閣であるが、こと少子化対策に限れば、厚労省・少子化対策特別部会の議論が法案の形となるまでの流れは大きく評価されるものであった。与野党を通じてスムーズな合意が得られたのも、その表れであろう。
  ところが、今年5月に法案が衆議院を通過したにもかかわらず、参議院では一向に審議されず、結局通常国会において廃案になってしまう。参院で多数を占める野党が福田内閣の問責決議案を可決させたため、内閣提出の法案を審議する名分が失われてしまったからだ。問責決議案の功罪については、「ねじれ国会」以降、議論される機会が多いが、時にはこうした事態も生んでしまう。
●  自治体への義務付けと、国の制度としての再スタート
  廃案から5カ月、今また現内閣に対する問責決議案の影がちらつき始める中、法案成立の先行きが不透明になりかけていた。そうした中、何とか政治の知恵を結集して成立へとこぎつけた流れは歓迎すべきであろう。
  この法案においては、先に述べた「保育ママ」や里親制度に注目が集まりがちだが、それ以上に画期的なのは、乳児家庭全戸訪問事業および養育支援訪問事業を市町村に義務付けた点にある。前者は通称「こんにちは赤ちゃん事業」ともいい、生後4カ月までの乳児がいるすべての家庭を市町村が委嘱した母子健康推進員などが訪問し、子育てに関する不安や悩みを聞きながら、適切なサービス提供につなげるというもの。後者は、親が病気であったり、虐待リスクが高まっていると判断された家庭に対し、保健師や保育士等が訪問することで養育に関する指導や助言を行なうというものである。これらは自治体単位で事業化されていたが、今回の法改正で国の制度として再スタートすることになる。
●  厚生行政全体の方向性にも新たな一歩
  ポイントは「育児の早期段階から訪問する」点にある。核家族化が進む中、初めて子どもを育てる世帯などは、情報不足に悩むことも多い。子どもの発達状態は千差万別であるため、いわゆるマニュアル的な育児ノウハウが通用しないことも多く、それゆえに「勝手が違う」ことで親が自分を責めたり、あるいは虐待に走ってしまうなどというケースもある。外に支援を求めることが「育児失格と思われる」という意識が立ち、結局閉塞した状況の中で育児放棄などが深刻化することもある。
  こうした状況を防ぐには、世帯からのアクセスを待つのではなく、支援する側から実態把握の手を差し伸べていくことが求められる。これは、子育て施策に限った話ではなく、高齢者福祉や障害者福祉などにも通じる課題であろう。こうした支援策が他の福祉分野において、まだまだ未成熟であることを考えれば、今回の法改正は厚生行政全体の方向性にも新たな一歩を築いたことにもなる。
  問題は、事業推進を図るうえで、相応の予算措置がほどこされるか否かにある。現在の麻生内閣が、今回の法改正の意味をどこまで実直に受け止め、予算編成へと反映させることができるか。今こそ評価が問われている。
(田中 元 医療・福祉ジャーナリスト)
2008.12.01
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