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流行語は「デレバレッジ」、2008年の世界経済総括
●  100年に1度の金融危機に
  今年の流行語大賞は「グ〜!」と「アラフォー」に決まったが、経済・金融界の流行語は「デレバレッジ」で決まりだろう。今年起きた「100年に1度」といわれる経済現象は、この言葉でほぼ説明がつく。
  デレバレッジを理解するにはまず、レバレッジ(leverage)を知らなければならない。レバレッジはレバー(lever)、つまりテコを効かすことだ。金融界でいうレバレッジとは、自分の手金だけでなく、銀行など人から借りた借金も合わせて株や債券などの金融商品を買うことを表す。
●  金融版テコの原理
  なぜ、借金も合わせて株を買うことがテコを効かせることになるのだろうか。例えば、100万円の手金でA社の株式を1株買ったとする。業績が好調で株価が50%上昇し、1株150万円に値上がりした時点で株を売れば、50万円の利益が得られることになる。
  これがもし、100万円の手金と100万円の借金、合計200万円で2株買ったとする。株価が同じく50%値上がりすれば、2株持っているので300万円の価値になる。株を売れば利益は100万円だ。手金だけで株を買った場合の50万円と比べて2倍の利益を手にすることができた。これが借金をテコに利益を増やすレバレッジの効果だ。
  経済が好調で株価が上昇局面にあるとき、レバッレジはファンドなどの投資家に莫大な利益をもたらした。買った株の株価が上がって利益が増える成績の良いファンドには、銀行はどんどん金を貸してくれる。ファンドはその資金でレバレッジを効かせてどんどん株を買う。こうしたファンドが多く出てくると全体的に株価が上がっていく。ファンドの成績はさらに良くなって、また銀行が金を貸してくれる、という循環だ。
●  デレバレッジの恐怖
  こうして実態以上に株式などの資産価格が上昇することを、われわれは「バブル」と呼んでいる。今回のバブルの主犯は間違いなくレバレッジだ。
  しかし、バブルはいつかはじける。サブプライムローン問題の本格化によって、あらゆる金融資産がレバレッジによって実態の価格よりもかけ離れていると気付き始めたとき、逆回転が始まった。まず、勘のいい投資家が株や土地を売り始める。すると株価や地価が下がり始める。ファンドの成績が悪くなり、銀行が金を貸さなくなる。特に資産が劣化した銀行は資金回収に走るようになる。これがデレバレッジだ。
  銀行に金を返さなくてはならない投資家は、株や土地を売って現金化を急ぐ。こうして株価や地価の暴落が始まる。レバレッジによって倍々に上昇した資産価格は、デレバレッジによって一気に数分の一に下落する。これが「100年に1度」といわれる金融危機の正体だ。
●  株価・為替で予想外れる
  筆者は年初のトピックス1574で2008年は「日経平均株価が1万5,000円台、長期金利が1.5%、円が1ドル110円という水準が目安となりそうだ」と予想した。12月上旬時点で日経平均株価が8,000円前後、長期金利が1.4%前後、円が1ドル90円台前半で推移している。世界経済が低迷するという方向性こそ間違ってはいなかったが、株価と為替は筆者の予想を大きく外れた。これは年初の時点で、デレバレッジのすさまじさをわかっていなかったからだ。
  低金利の円は調達金利の安い通貨として、まさにレバレッジの原資となっていたため、デレバレッジで投資家の買い戻しが起こり、急激な円高に見舞われた。日本の国債はレバレッジを掛けて買う投資家が少なかったため、長期金利は常識的な範囲で推移した。
  デレバレッジで行き場を失った投資・投機マネーは市場規模の小さい資源市場に流れ込み、これが年央の極端な資源高をもたらしたが、投資家がデレバレッジによる借金返済を急ぐなかで資源バブルは長続きしなかった。筆者は6月の時点で原油価格が下がると予想し、それ自体は間違っていなかったが、原油価格は現在40ドル前後。これほどまでの急落は予想できなかった。
2008.12.15
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