>  今週のトピックス >  No.1765
「内定取り消し」について知っておきたい法律知識
●  内定取り消しは、社会問題にまで発展
  ここ1カ月の間、非正規社員の契約解除のニュースが報じられている。雇用状況改善の兆しがみられない中で、非正規社員だけでなく正社員も不安な日々を送っている。そのような雇用環境の中で、2009年4月入社予定の学生の内定取り消しのニュースも注目されている。内定を取り消された学生は、国が把握できている範囲だけでも全国で300人以上おり、もはや大きな社会問題の1つといっても過言ではない。
  連合では、採用内定取り消しに関する緊急雇用相談を行っているが、そこから聞こえてくる声はかなり深刻のようである。例をあげると、一方的に内定取り消しを通告してくる企業、給与の1〜2カ月分の和解金で取り消しをのんでもらおうとする企業、内定を辞退するように手紙を書いて送れと連絡してくる企業などさまざまであるが、どれもかなり厳しいものである。また、採用延期の通告をする企業もあるようだが、そもそも内定とはどのような状態のことをいうのか。今回は、判例などを踏まえて内定取り消しについて、ポイントを絞ってまとめてみたいと思う。
●  採用内定は、「労働契約の成立」である
  大手企業の人事担当者などは、新卒内定者を安易に内定取り消しできないということはわかっている方がほとんどかもしれないので、慎重に判断するに違いないが、中小、中堅企業の場合、トップの判断で一方的に内定を取り消ししたりすることもあり、トラブルに発展することは意外に多い。内定取り消しは、個人の人生にまで大きな影響を与えるだけに関係者にはもっと真剣に考えていただきたいところである。
  さて、今回は新卒の内定取り消しについて法的な視点で考えてみようと思う。そもそも「採用内定」を受けているということは原則として学生と企業の間で雇用関係が成立しているということができる。専門的な言葉を使うと、「解約権を会社が留保した労働契約」が成立したとみなされるのであって、内定取り消しとは、すなわち解雇である。解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効になってしまうということは周知のとおりであり、企業側はこのようなことを踏まえて実務を進めなければならない。
●  業績悪化により内定取り消しは、正当な理由にならない
  内定取り消しについて最高裁では、「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できないような事実であって、これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨、目的に照らして客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られると解するのが相当である」としており、企業側は労働者側に比べて、かなり不利な状況にあるといえる。内定取り消しの理由は倒産や業績不振などいろいろあるが、倒産の場合はやむを得ないとしても、景気後退に伴う業績悪化というのは上記の判例から、正当な理由とは言えない。いずれにしてもこのように内定取り消しをしたいと思っている場合には、一方的に書面を送ったり、電話で話して済ませたりせずに、誠意をもって話し合うことが必要である。当然、内定取り消しを受け入れてもらうことで話がつくようであれば、和解金を準備することも必要になるだろう。逆に企業側が誠意をもって接しない場合には、従業員としての地位保全または損害賠償請求されることも大いに予測される。いずれにしても企業名が公表されることによって、企業のイメージが悪化し、結果的に企業業績が大きく悪化することのないように慎重に対応する必要があるといえるだろう。
(庄司 英尚、株式会社アイウェーブ代表取締役、 庄司社会保険労務士事務所代表、社会保険労務士)
2008.12.22
前のページにもどる
ページトップへ