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2009年度予算財務省原案における社会保障
〜2,200億円抑制に縛られた厳しいやり繰り〜
●  依然として続く、苦しいやり繰り
  12月20日、2009年度予算の財務省原案の編成が行われた。世界的な金融危機のもと、悪化する国内景気にどう対処するかが最大のポイントであるが、同時に、高まる生活不安のセーフティーネットを担う社会保障費の動向についても大きな関心が集まっている。
  少子高齢化の中で伸び続ける社会保障費については、小泉政権下で策定された「骨太の方針2006」において、2011年度までの5年間で自然増から1兆1,000億円の抑制(年平均で2,200億円)を図ることが掲げられている。2007年度以降の予算編成については、この抑制幅をいかにクリアするかということが大前提となり、社会保障政策の手足を縛ってきた。結果、今回もやり繰りのための技術論だけが前面に出てしまった感が強い。
  当初、厚労省側はたばこ税の導入や健保組合から協会けんぽ(旧・政管健保)への臨時拠出などを当て込んでいた(法制化は継続審議となっており廃案が濃厚)が、どちらも関係団体や与党の強い反発を受けて頓挫している。そのため、年金特別会計に繰り入れられている「特別保健福祉事業」の廃止にかかる健保支援資金約1,400億円をつぎ込み、一般財源化される道路特定財源から600億円を捻出することで2,000億円を抑制。さらに、後発医薬品の使用啓発を進めることで、約200億円を浮かせ、何とか今年度は2,200億円をクリアするという見通しである。
●  2010年度以降はさらなる問題が
  しかしながら、特別保健福祉事業はあくまで特別会計枠で実施されていたもので、いわば「埋蔵金」。道路特定財源からの拠出は、道路族議員の反発を何とかかわすことのできる金額に抑えられている(ちなみに福田政権時における金額より少ない)。いずれにしても、2009年度限りの裏技に近く、2010年度以降も展望できる実質的な抑制は「後発医薬品の使用」による200億円に限られるわけだ。
  一方で、2009年度の改定が予定されている介護報酬は、全体でプラス3%になることがほぼ確定。その他、基礎年金の国庫負担率のアップや、問題となっている勤務医の待遇改善、保育所運営費の負担金増など、社会保障にかかる歳出の予定はどれも増額ばかりである。
  2009年度は何とか乗り切れたとしても、その後はどうなるのか。すぐに連想されるのは、やはり消費税の増額、そしてもう一つは「社会保障メニューは豪華だが、それらの利用自体は抑制される」という仕掛けである。
●  国民の不安要因の解消を
  後者については、例えば、介護保険サービスの対象者を要介護認定段階で絞り込む、あるいはサービス利用の要件を厳しくするという流れが考えられる。すでにこの仕掛けは現場レベルで強化されており、結果として、全国の市区町村において3,800億円余りの介護保険財政の黒字が見込まれている。
  この流れが危険なのは、「サービスはあっても使えない」という意識が国民の間に根づいてしまうことで国民と社会保障制度の距離感が遠のき、サービスメニューは充実していても安心を醸成する装置にならなくなるということだ。そこで、同時に消費税アップということになっても、国民としては当然納得しない。仮に景気が回復し、消費税が社会保障目的税に特化されたとしても、そのアップに対する理解は広まらないのではないか。
  内向きな視線で金銭上のつじつまだけを合わせようとする政策は、かえって財政健全化の道を閉ざしてしまうことになりかねない。必要なのは、省庁の垣根を取り払い、「現段階で解消すべき国民不安の要因」に向けて集中的な財政投入を図ること。それによって、「消費税アップが避けられないとしても、それが自分たちの不安解消につながるのだ」という確信を国民に持たせることだろう。
(田中 元 医療・福祉ジャーナリスト)
2008.12.29
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