>  今週のトピックス >  No.1773
出産育児一時金が38万円に引き上げ
●  金額のアップは、出産日が21年1月1日以降であることが1つの要件
  健康保険の被保険者やその被扶養者が出産したときに支給される出産育児一時金(家族出産育児一時金)は、これまで35万円となっていたが、平成21年1月から産科医療補償制度に加入する医療機関等において出産したときは、産科医療補償制度に係る費用が上乗せされ、38万円と変更になった。金額が上がったことは被保険者にとって喜ばしいことだが、実は「産科医療補償制度」が創設されたことに伴うものである。「産科医療補償制度」って何?  という方も多いと思われるので、今回はまだなじみがない人でもわかるように「産科医療補償制度」の概要と出産育児一時金について、まとめてみたいと思う。
●  「産科医療補償制度」とはどんな制度なのか?
  産科医療補償制度とは、分娩に関連して発症した重度脳性麻痺児に対する補償の機能と脳性麻痺の原因分析・再発防止の機能とを併せ持つ制度として創設されたものである。運営している財団法人日本医療機能評価機構によるとその目的は、分娩に関連して発症した脳性麻痺児およびその家族の経済的負担を速やかに補償すること、脳性麻痺発症の原因分析を行い、将来の脳性麻痺の予防に資する情報を提供すること、またこれらにより、紛争の防止・早期解決および産科医療の質の向上を図ることとしている。
  分娩機関が本制度に未加入だったことにより、本来、補償されるべき脳性麻痺児が補償を受けることができないという事態は防ぐべきであり、すべての分娩機関が「産科医療補償制度」に加入することが求められている。今のところ、出産施設のある医療機関では、この制度に一部を除き加入すると思うが、1出産あたり約3万円の掛け金が必要となるので、その分出産費用を上げなければ医療機関もやっていけない。このような背景があり、その負担が被保険者にそのままいかないようにするために今回、政府は出産育児一時金の額をアップさせたのである。
  産科医療補償制度への平成20年12月24日現在の加入率は、病院診療所で99.2%、助産所では94.8%であり、前回の発表時よりはアップしており、この点については少し進展しているようであるが、問題は任意加入であることだ。任意加入では、万一の際に補償しない病院等があるということであり、今後大きな問題となる可能性もある。またこの運営の仕組みについても疑問を持っている有識者は多く、制度創設前には、いろいろ議論があったようである。
●  出産育児一時金は事前申請制度の利用を
  このように産科医療補償制度と出産育児一時金(家族出産育児一時金)は、密接に絡み合っているわけだが、出産育児一時金の給付制度については、実はもっと基本的なところである事前申請制度について押さえておく必要がある。従来は出産後に一時金の申請をしていたが、現在では出産予定日の1カ月前から事前申請ができるようになっている。事前申請するということは、被保険者が出産後に一時金を受け取るのではなく、医療機関が出産育児一時金の受け取りを代理する形になり、その差額を被保険者は支払うだけでよいので一時的な負担が少なく大変助かる制度である。被保険者が行う手続きは従来と比べてもそれほど面倒ではないし、企業の人事総務部など社会保険の手続きの窓口担当者に相談すれば教えてもらえるだろう。ただしこの事前申請制度については、健康保険組合についてはまだ導入していない組合もあるので注意が必要である。
  なお厚生労働省は、今後出産育児一時金(1児につき38万円)について、さらに4万円上乗せして全国一律42万円とする方針を社会保障審議会に提示した、と報道されている。今後は、その動きにも注目していきたいところだ。
出所:全国健康保険協会
http://www.kyoukaikenpo.or.jp/8,6412,39.html
(庄司 英尚 株式会社アイウェーブ代表取締役、庄司社会保険労務士事務所代表、社会保険労務士)
2009.01.13
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