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事業承継税制、自社株式に係る80%納税猶予制度
●  見送られた相続税の課税方式の見直し
  2009年度税制改正においては、中小企業経営承継円滑化法に基づく事業承継税制の創設が盛り込まれた。経営承継相続人が相続などにより経済産業相の認定を受けた非上場会社の議決権株式を取得した場合には、その株式に係る課税価格の80%相当の相続税が納税猶予される。対象が中小企業全般に拡大された同制度は、経営承継円滑化法の施行日である昨年10月1日以後の相続等にさかのぼって適用される。
  当初は、納税猶予制度を適用すると、その恩恵が経営承継相続人だけでなく他の相続人にも及ぶことから、相続税の課税方式の変更が予定されていたが、現下の経済情勢を考慮して見送られた。猶予税額の計算方法は、まず、相続税の納税猶予の適用がないものとして、通常の相続税額の計算を行い、各相続人の相続税額を算出する。経営承継相続人以外の相続人の相続税額は、この額となる。
  次に、経営承継相続人以外の相続人の取得財産は不変とした上で、経営承継相続人が、特例適用株式等(100%)のみを相続するものとして計算した場合の相続税額と、特例適用株式等(20%)のみを相続するものとして計算した場合の経営承継相続人の相続税額の差額が、経営承継相続人の猶予税額とされる。上記の通常の相続税額の計算で算出した相続税額から、この猶予税額を控除した額が経営承継相続人の納付税額となる。
●  猶予税額が免除されるケースを具体化
  また、猶予税額が免除される一定の場合を具体化している。経営承継相続人が株式等を死亡のときまで保有し続けた場合は、猶予税額の納付が免除される。このほか、経済産業相の認定の有効期間(5年間)経過後においては、(1)その会社が経営破たんした場合、(2)次の後継者に株式を贈与して、その株式等について贈与税の納税猶予制度の適用を受けるとき、など一定の場合には、猶予税額の全部または一部が免除される。
  さらに、(3)同族関係者以外の者へ保有する株式等を一括して譲渡した場合で、その譲渡対価または譲渡時の時価のいずれか高い額が猶予税額を下回るときには、その差額分の猶予税額が免除される。なお、租税回避行為に対応するため、(1)、(3)の場合に免除される額のうち、過去5年間の経営承継相続人及び生計を一にする者に対して支払われた配当金および過大役員給与等に相当する額は免除しないとされている。
●  自社株式に係る贈与税の納税猶予制度の創設
  80%納税猶予制度が導入される一方で、親族に対する生前贈与の場合について贈与税の納税猶予制度が創設される。経営者の親族である後継者が、同円滑化法に基づく経済産業相の認定を受けた非上場会社を経営していた親族から、贈与によりその保有株式の全部を取得した場合には、猶予対象株式の贈与に係る贈与税の全額の納税を猶予する。
  猶予対象株式は、贈与前から後継者がすでに保有していた議決権株式等も含め発行済議決権株式等総数の3分の2に達するまでの部分を上限とする。贈与者の死亡時には、贈与税の猶予税額は免除され、引き続き保有する猶予対象株式等を相続により取得したものとみなして、贈与時の時価により他の相続財産と合算して相続税額が課税されるが、課税された相続税の納税猶予が適用される。
  贈与税の納税猶予の適用要件は、相続税の納税猶予制度と同様に、経済産業相の認定を受けることや、雇用確保を含む5年間の事業継続を行い、その後も株式を継続保有することが必要となる。また、贈与者の死亡時における相続税の納税猶予の適用は、認定要件のうち一定のものを満たすことについて経済産業相の確認を受けることや、5年間の事業継続は課されないが、株式の継続保有等の要件を満たすことが必要となる。
  自社株式に係る贈与税の納税猶予制度は、2009年4月1日以後の贈与から適用される。
(浅野宗玄、税金ジャーナリスト、株式会社タックス・コム代表)
2009.01.13
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