>  今週のトピックス >  No.1777
2009年度介護報酬改定案がまとまる
〜施行後初のプラス改定がもたらす効果は?〜
●  報酬改定率プラス3パーセントの背景
  年末も押し迫った昨年12月26日、第63回社会保障審議会・介護給付分科会において、09年度改定予定の介護報酬案が諮問・答申された。介護保険は6年ごと(法的には5年ごとだが、自治体の介護保険計画策定との整合性をとるために、実質6年ごととなっている)の制度見直しと、3年ごとの報酬改定が定められている。今回は、2006年の制度改正の影響を、報酬改定によってどのように補正するかという点に大きな注目が集まっていた。
  2008年の半ばから本格的に始まった改定議論において、当初から避けられない課題となっていたのが「介護現場における人材確保の難しさ」と、それを誘発していると指摘される「介護職員の待遇の低さ」である。
  当トピックスでも取り上げてきたとおり、介護現場の人手不足は2006年改正の影響や、介護給付不正事件の多発等による業界イメージの低下によって、ここ数年社会問題としての深刻さが際立ってきた(景気低迷によって他業界がリストラ等を推し進める中、それでも有効求人倍率が高止まりしたままという状況に、その深刻さが現れている)。
  これを受けて、国会では2008年4月に与野党合意のもと、介護従事者の人材確保を進めるための処遇改善法(介護従事者処遇改善法)が成立した。この法律により、2009年度介護報酬改定において、人材確保・処遇改善のために何らかの方策を打ち出すという“縛り”が設けられた。その後、政府・与党の「介護従事者の処遇改善のための緊急特別対策」として、報酬改定率をプラス3%にすることが正式に決められたのである。
●  「現場の声」への直結は疑問?
  過去の報酬改定を見ると、マイナス2・4、マイナス2・3という下げトレンドにあり、その中でプラス3%という伸びが、どこまで介護従事者の処遇改善に結びつくかは疑問視する声も多い。とはいえ、一定の歯止めがかかったという点は歓迎していいだろう。
  問題は、課題解決のための必要な部分に対して、的確な仕掛けがほどこされているかどうかにある。人材確保・処遇改善については、施設の夜勤業務や訪問介護におけるサービス提供責任者の緊急対応など、現場において「負担が重い」とされてきた部分への評価を手厚くした。また、高止まりする離職率を緩和するため、職員の経験年数に応じて報酬を加算する仕組みも導入されている。
  いずれも、これまでになく「現場の声」を取り入れた施策であり、方向性としては評価できる。ただし、報酬が支払われるのは施設や事業所に対してであり、その分がそのまま従事者の待遇改善に結びつくという保障はない。そのあたりは、施設・事業所の情報公開の中で、きちんと告知させるといった仕掛けの必要性も議論されるべきだろう。
●  日本の社会保障制度全般の問題
  その他、今回の報酬改定で注目すべきは、利用者側の状況変化への対応を積極的に盛り込んだ点にある。例えば、療養病床の削減や医療保険対応のリハビリなどに上限が設けられる中で、医療・看護依存度の高い利用者が増えてきている。そこで、訪問看護における長時間訪問の評価を見直したり、通所リハに医療機関のみなし指定を導入しつつ、理学療法士などのリハビリ専門職を手厚く配置している事業所の評価に加算をつけるなどの方策がとられた。在宅における重度認知症の利用者が増えていることをふまえ、ショートの緊急受け入れの評価も手厚くしている。
  しかしながら、利用者の重篤化への対応は、医療保険と介護保険の境界がますますあいまいになり、医療保険財政のひっ迫のツケを介護保険が払うという流れを加速する可能性もある。と同時に、介護現場の負担や緊張感も増えることになり、先の人材確保・処遇改善策が相殺されてしまう恐れもないとはいえない。その影響については、ここ1年ほどの状況を見守らなければならないだろう。いずれにしても、今回の報酬改定は、日本の社会保障制度全般がいかに追い込まれているかという状況を結果的に示すことにもなりそうだ。
(田中 元 医療・福祉ジャーナリスト)
2009.01.19
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