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厚労省が「自死遺族ケアシンポジウム」開催
〜遺族ケアを草の根に広げるために〜
●  深刻化する現状
  今年3月、厚生労働省主催による「自死遺族ケアシンポジウム」が、9日に福岡、10日に東京においてそれぞれ開催される(詳細は以下を参照、 http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/jisatsu/jisatsu-01.html )。厚労省が主催する同種のイベントとしては初となり、これまで民間主導で進められてきた自死遺族への支援を社会全体に広げ、その支援のあり方を考える機会となることが期待される。
  わが国における年間の自殺者が、10年連続で3万人超となる中、自死遺族や自殺未遂者など、最も追い詰められている人々への支援は緊急を要する課題といえる。自死遺族の中には、精神的・経済的に疲弊する中で後追い自殺に至ってしまうケースも少なくない。
  現在、世界レベルの景気後退が進み、わが国でも非正規社員だけで40万単位の失職者が生じるといわれている。こうした人々が精神的・経済的に大きなダメージを受けることを想定すれば、自死を食い止める一方、不幸にして自死に至った人の遺族へのケアを推進するための社会運動の広がりは欠かすことができない。また、いわゆる団塊世代の定年退職者が増える中、そうした人々が生活の張りを喪失してアルコール依存になるなどのケースも懸念されている。重度のアルコール依存が自死行為につながりやすいことを考えれば、これもまた社会を揺るがす大きな課題となってくるだろう。
  深刻化する状況を受けて、国は2006年に自殺対策基本法を制定し、国や地方行政、企業などが自殺防止のために行うべき取り組みを示した。また、政府に対しては自殺対策大綱の制定をうながしている。
●  民間主導、支えは身近な人々
  この自殺対策大綱は2007年6月の閣議で決定されたが、その中には、今回のシンポジウムのテーマでもある「遺された人(自死遺族等)の苦痛を和らげる」という項目も独立して設けられている。具体的には、精神保健福祉センターの相談窓口を充実させるなどの公的支援策も示されているものの、多くは民間団体の活動を後押しする内容が目立ち、国によるリーダーシップがなかなか見えてこない。
  人が1人自殺をすると、その人を失ったことによる深刻なダメージを被る家族や友人の数は、その何倍にものぼることになる。年間3万人の自殺者が10年続いた場合、遺されることで何らかの影響を受けた人は、何百万人にも達する可能性があるとすれば、これはもはや全国民に共通した大問題ということになる。まさに国を揺るがす事態と言ってよく、それが主に民間団体の努力に支えられているという現実は大変に厳しい。
  2008年1月に自殺予防総合対策センターが「自死遺族当事者の悲嘆およびケアへのニーズに関する調査研究」を行っているが、その中に、自死遺族が「助けや支えになった」と感じた対象としてトップにあげられたのが「家族」、そして「自死遺族当事者(遺族会などに参加機会を通じてサポートを受けることができる)」「友人」「親戚」などとなっている。専門機関以上に、いかに身近な人々が支えとなっているかが分かる。
●  早急に求められる国レベルの対応
  ところが、「周囲から遺族へ言動等によって二次被害を被った」ケースが生じた場合、その対象として多いのも、やはり「家族」「友人」「親戚」などとなっている。つまり、最も身近な人が「支え」ともなれば「遺族を傷つける当事者」にもなりえるという実態が明らかになったのだ。
  この点を考えれば、いつ遺族のステークホルダーとなるか分からない一般の人々に対し、遺族理解に向けた知識の底上げを図っていくことが重要になる。民間団体の中には全国キャラバンのような活動を行っているケースもあるが、今後の必要性を考えれば、やはり国レベルでの取り組みが欠かせない。
  その意味で、遅まきながら今回のようなシンポジウムが開催されたことは歓迎すべきであろう。今後は、頻度を増やしながら草の根の理解をいかに広げていくかということが課題になる。残された時間は決して多くはない。
(田中 元 医療・福祉ジャーナリスト)
2009.02.16
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