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2009年度介護報酬改定をめぐる現場の反応
〜波紋を呼ぶ「地域区分の見直し」〜
●  現場は「アップどころではない」
  2009年度に改定される介護報酬が示されて2カ月が経過し、事業経営への影響を試算する動きが、全国の介護現場で活発になっている。だが、制度スタート後初となる3%アップの改定にもかかわらず、現場から強く歓迎する声はほとんど聞かれない。
  「夜勤を手厚くすれば加算がつくというが、これまで赤字覚悟で手厚くしてきた分がゼロに戻るだけ」という声や、「職員の資格保有率を高めれば加算はつくが、資格を取るとすぐに給与の高い大法人へと転職されてしまう。これでは育成損」という声を聞く。それ以上に、一部の現場からは「アップどころではない。大幅な減算になる」という声も出ている。
  今回、特に減算が問題となっているのは、報酬1単位あたりの単価を決める地域区分が見直しになったことだ。これは、地域別の物価格差等を考慮した場合、大都市部ほど給与費が高くなるという点を踏まえ、1単位あたりの単価に差をつけているという仕組みについてである。これまでも、全国を5種類の地区に分け、それにサービスごとの人件費割合を見込んだ上で、1単位=10円からどれだけ上乗せするかを決めてきた。
●  行き場確保のために負担増加の利用者も…
  今回、上乗せ割合が変わった点に注目が集まったが、事業所側にとって大きな問題となったのは人件費割合の変化である。改定前の人件費割合は60%と40%の2種類に分けられていたが、改定後は70%、55%、45%の3種類に分割された。
  改定前に60%と分類されていたサービスの場合、普通なら70%か55%に分類されるものと考えがちだ。その場合、特別区(東京23区など)で見るならば、改定前は1単位=10.72円だった値が、改定後は11.05円もしくは10.83円となる。ともにアップである。特甲地(横浜市など)では、人件費割合60%だったサービスが55%に分類されると減算になるが、それでも1単位あたり0.05円のダウンにとどまる計算である。
  ところが、実際は、改定前に60%と分類されていたサービスが、今回の改定で45%に分類されてしまうというケースが現れた。例えば、デイサービスやグループホーム、有料老人ホームなどの特定施設である。この場合、仮に特甲地にあるとすると、1単位=10.60円が10.45円になり、0.15円の急落となる。仮に毎日50人の利用があるデイサービスなどでは、月あたりの収入が20万円近くダウンしてしまう。非常勤職員1人分の人件費が飛んでしまう計算となる。
  スケールメリットで穴埋めのできる法人ならばまだいいだろう。問題なのは、NPO法人などが地域で細々と運営しているグループホームなどである。私の知人で法人代表をしている人などは、「これではやっていけない」とすでに頭を抱えている。
  利用者にとっては負担が減るのだから歓迎すべきだろう──という声も確かにある。だが、経営状態がぎりぎりとなれば、グループホームなどは生き残りのために、利用者の居住費へと転嫁することまで考えざるを得ない。居住費は介護保険の給付外であるがゆえに、転嫁が行われれば利用者には逆に負担増となる。現在入居しているホームが閉めざるを得ない状況を想定すれば、行き場をなくすという状況を回避するために、居住費転嫁に納得せざるを得ない利用者も出てくるだろう。
  3%アップというスローガンの影で、介護をめぐる不安はますます高まっている。国としてこの状況を放置することは許されない。
(田中 元 医療・福祉ジャーナリスト)
2009.03.02
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