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今国会を揺らす、3つの障害者施策
〜自立支援法見直しに始まる大きな流れ〜
●  注目される3つの法案
  2009年度予算案が衆議院を通過し、年度内成立が確実となってきた。なおも国会では、2009年度補正予算の審議が待ち受けているが、その合間をぬって大きな政策テーマが持ち上がろうとしている。中でも注目されるのが、障害者施策に関する3つの法案類だ。1つは障害者自立支援法の改正、2つめは2006年の国連総会で採択された障害者権利条約への批准、もう1つは障害者基本法の改正である。
●  応益負担から応能負担への回帰
  障害者自立支援法については、2006年の施行以降、応益負担が障害者福祉になじまないとして多くの批判を浴びてきた。その間、利用者負担減免などの予算措置が施されてきたが、抜本的な見直しを求める声は高まる一方である。昨年には、国を相手どった違憲訴訟も相次ぎ、大きな政治課題になりつつある。
  一昨年、野党・民主党が同法の改正案(障がい者応益負担廃止法案)を国会に提出したが、これに呼応するように与党側もプロジェクトチームを立ち上げ、現行法の見直しを進めてきた。そして、2009年度予算案の衆院通過という節目に合わせ、応益負担の規定を削除し、所得に応じた応能負担へと転換することを旨とした法案提出を予定している。
  そもそも、自立支援法の背景には、財政難が叫ばれる介護保険法との統合の狙いがあった。40歳未満の障害者への施策と介護保険を一緒にすることで、保険料の負担層を一気に広げるという思惑である。サービス利用料の1割を負担する介護保険と統合することになれば、当然、障害者施策についても応益負担が原則となる。自立支援法の応益負担は、この統合を前提としたうえでのワンステップと位置づけられる。
  ところが、この統合案は世論や有識者、業界団体から大きな反発を招き、現在は完全に頓挫している。加えて、ここ1、2年、社会保障費抑制の流れを見直す機運が活発になることにより、応能負担への回帰は避けられなくなったといえる。
  この流れを加速させたのが、先に述べたもう2つの検討項目だ。2番目の障害者権利条約は、福祉、教育、雇用といったさまざまな国内施策において「障害に基づく差別」を禁止するというもので、批准国には、その実効性のために国内法を整備することが求められる。同条約は、批准国が20カ国に達した段階で発効されるが、その条件が昨年クリアされ、現在までに批准国は50カ国にのぼっている。
●  障害者施策の抜本的な転換に向けて
  一方、日本は2007年に条約への署名は果たしたもののいまだ批准には至っていない。例えば、教育面における「インクルーシブ」(障害のない子どもの教育環境に、障害のある子どもを受入れる)という規定に関し、文科省が進めている「特別支援学校」(かつての盲・聾・養護学校が一本化されたもの)が規定にそぐわないとして障害者団体等が強く反発していることも背景の一つにある。こうした国際条約は、時の政府にとっては徐々に大きなプレッシャーになるもので、さまざまな施策転換の引き金になりやすい。「障害の程度によって負担が左右される応益負担は、障害者差別にあたる」という批判が根強い自立支援法の改正もその流れの上にあると言っていい。
  さらに、大きな圧力となるのが、3つめの障害者基本法の改正だ。こちらは2004年に大幅な改正が行われ、障害者への差別禁止などがより強くうたわれることになったが、同時に、時代に合わせて法の趣旨をより一層推し進めるべく「5年ごとの見直し」が盛り込まれている。2009年度がその見直しの5年目にあたり、当然、先の障害者権利条約への批准も法案内容を大きく左右するわけだが、「基本法」であるがゆえに、すべての障害者施策がその縛りを受けるのは間違いない。
  いずれにせよ、この3つの法律・条約が互いに共鳴しながら、障害者施策の抜本的な転換に向けて大きなうねりを作り出す可能性は高い。いま国会は「政治と金」の問題で揺れているが、それ以上の潮流となって、政治を突き動かすことが予測される。
(田中 元 医療・福祉ジャーナリスト)
2009.03.16
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