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公的年金の「所得代替率5割維持」の怪
●  平成21年度財政検証結果
  厚生労働省は去る2月、「国民年金および厚生年金に係る財政の現況及び見通し」(いわゆる財政検証結果)を発表した。
  それによると、現状では年金の給付水準について、現役世代の手取り収入と比較した水準(所得代替率)は5割を維持する見通しとなっている。この5割水準を維持できなかったら、給付および負担のあり方について検討を行い、所要の措置を講ずる必要があったのだから、ホッと胸をなでおろした関係者も多いのではないだろうか。
●  財政検証の前提
  公的年金の財政検証は、法律により少なくとも5年ごとに作成されなければならないことになっている。今回は平成16年の年金大改正後、初の検証となる。検証には当然のことながら将来予測のためのさまざまな前提条件が必要となってくる。この前提条件次第によっては、年金財政の健全性の見通しは良くも悪くもなってしまう。
  今回の、5割の水準を維持するとされたのは「基本ケース」といわれるもので、「(1)死亡中位、(2)出生中位、(3)経済中位」という前提によってはじき出された数字である。しかし、それぞれの中身を見てしまうと、自信を持って老後生活が大丈夫と言い切れる人は少なくなるかもしれない。
●  前提の中身
  まず、「(1)死亡中位」であるが、これは2005年時点の平均寿命(男性78.53歳、女性85.49歳)が、2055年には男性83.67歳、女性90.34歳となる前提である。次の「(2)出生中位」は、2005年時点の合計特殊出生率1.26が同水準で推移するものとして、2055年においても同出生率は1.26としている。三つ目の「B経済中位」であるが、日本経済および世界経済が現下の厳しい状況を脱し、2010年には順調に回復するとの前提であり、具体的な数値としては「物価上昇率1.0%、名目賃金上昇率2.5%、名目運用利回り4.1%」となっている。
  その他にも前提となる条件はあるが、前述の3つの条件のもとで給付水準の将来見通しを行った結果、所得代替率は5割の水準を維持するというのが今回の財政検証の結論だ。
  もちろん、基本ケース以外の場合も想定されており、例えば死亡率に関連する「(1)死亡中位」に変化がないとしたときに、「出生高位、経済高位(出生合計特殊出生率1.55%、世界経済急回復)」という年金財政にとって良いシナリオの場合の所得代替率は54.6%(2032年以降)となるものの、逆に「出生低位、経済低位(出生合計特殊出生率1.06%、世界経済底ばい継続)」という悪いシナリオのときの所得代替率は43.1%(2048年以降)にしかならない。
  このあたりは「財政検証の結果の解釈にあたっては、相当の幅をもってみる必要がある」と報告書の中にもうたわれているとおりである。
●  公的年金は増えづらい仕組み
  さらに、今回発表された所得代替率は「年金を受給し始めたときの年金額」であって、その後についての話は別なのである。というのも、公的年金制度においては、年金をもらい始めた年以降の年金額(名目額)は原則物価上昇率で改定されるのが、通常は物価上昇率より賃金上昇率の方が大きいため、そのときどきの現役世代の所得に対する比率は下がっていくことになるのである。このことはあまり気付かれていないようだが、現役世代の賃金が上がっても、公的年金の受取額は増えていかない仕組みが組み込まれているのだ。
  公的年金制度は老後生活の基礎となるものではあるが、これから老後生活を迎える方々には、自助努力の意識を忘れないでいてほしいものだ。
2009.03.23
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