>  今週のトピックス >  No.1817
群馬県の高齢者施設火災について考える
〜いま国主導でなすべき高齢者施策とは〜
●  再発した悲劇
  群馬県渋川市の高齢者施設における火災で、入居者10人が死亡するという惨事が起こった。2006年の老人福祉法の改正により、有料老人ホームの届出対象が広がり(入居人数要件の撤廃やサービス内容の範囲拡大など)、同施設も都道府県への届出義務を有していたが、火災に至った時点でも無届けのままだった。
  加えて、今年4月より消防法施行令の改正により、延べ面積275u以上という小規模施設においても、スプリンクラーや自動火災報知設備(火災を探知すると施錠が自動的に解放されるといった設備も含む)の設置が義務付けられるが、3年の施行猶予期間が設けられていることもあり、この施設に関しても一連の設備は整えられていなかった。
  ちなみに、消防法施行令改正のきっかけとなった事件が、2006年1月に長崎県大村市で発生したグループホーム火災である(死者7名)。あれから3年以上が経過して、当時の被害を上回る惨事が繰り返されたことは、痛恨の極みといっていい。法令改正までして、なおこうした悲劇が再発するのはどういうわけか。
●  経営面での大きな負担
  法令改正後にいくつかのグループホームの代表と話をしたが、いずれも「スプリンクラーの設置に500万円近くかかり、経営面で非常に大きな負担となっている」というものである。もちろん設置に際しては補助金も付くが、まとまった補助金が付くのは義務化がスタートする新年度からで、それまでは日本政策金融公庫による融資枠程度しか資金調達方法がない。新年度からの補助金も1uあたり9,000円で、仮に300uの施設があったとすると補助金額は270万円。想定される総工費から考えてもかなり低く見積もられている。
  話を聞いた法人代表の一人は、「長崎県のような惨事を防ぐという強い意思があれば、早くから補助金をしっかり付けるべきだった」と、中途半端な国の施策を批判する。
●  早急な改善のための予算投入を
  今回の惨事に関する問題は、防火設備だけではない。無届施設にもかかわらず、東京・墨田区のあっせんによって生活保護受給者が多数入居していたことも明らかになった。その背景には、低所得高齢者の受け入れ先不足により、とにかく施設を探すことで手いっぱいになっている事情が背景にある。
  しかしながら、設備環境等が劣悪な「受け皿」の存在は、介護保険以前から問題視されていた。私のもとにも、「ただ高齢者を居室に押し込め、わずかな食事だけ提供してあとはほとんど放置している」という、まさに収容所然とした法定外施設が多数ある情報が10年近く前から数多く寄せられている。こうした受け皿にさえ頼らざるをえない高齢者施策の現状は、まさにこの国の福祉政策の貧困を象徴しているといっていい。
 こうした状況を改善するには、介護保険とは別に、
(1)自治体の試算をもとに国の責任で低所得高齢者の受け皿を早急に整備する
(2)一方でサービスの質を監視するプロジェクトチームを組織し規制を徹底する
(3)規制内容が適切かどうかを審査する市民レベルによる第三者機関を設ける
という3ステップの施策が早急に必要となるだろう。もちろん、そのためには相応の財源が必要となる。定額給付金もいいが、時代の現状に合わせた集中的な予算投入を真剣に考えるべきだろう。
(田中 元 医療・福祉ジャーナリスト)
2009.03.30
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