>  今週のトピックス >  No.1825
4月より要介護認定の仕組みが変更に
〜「分かりにくさ」に現場から強い批判〜
●  現場では当初より大きな反発
  介護保険制度においては、この4月から新たな介護報酬が適用されている。同時にスタートすることになったのが、制度利用の要ともいえる要介護認定の新たな仕組みである。
  周知の通り、介護保険によるサービス受給の権利を取得するには、要介護認定を受けることが必要だ。要介護1〜5と認定された場合は「介護給付」を、要支援1・2と認定された場合は「予防給付」をそれぞれ受けることができる。この認定については、認定調査員が利用者のもとを訪れて必要なデータをとり、それをもとにコンピューターによる一次判定と審査会による二次判定にかけられる。
  今回、変更になった点は、大きく分けて3つ。
  (1)  認定調査員による調査項目が、現行の82項目から74項目に減ったこと(項目内容の入れ替えもあり)
  (2)  調査員の主観によってバラつきが生じないよう、調査の判断基準と記載方法を見直したこと
  (3)  一次判定に使われるコンピューター・ソフトを改編したこと
  この見直し作業は、当初から介護現場の大きな反発を招いてきた。例えば、見直しを進めるうえでのモデル事業において、「外出して戻れない」「収集癖がある」「火の不始末がみられる」「異食行為がある」といった認知症特有の状況がまるまるカットされてしまった。これには有識者からも批判が集まり、「外出〜」や「収集癖〜」など9つの調査項目は復活した。だが、「火の不始末」など10項目については、「主治医意見書で代替えが可能」としてカットされたままだ。
●  国民の実感とのさらなる乖離
  さらに問題になったのは、調査員のためのマニュアルである「調査員テキスト」の内容だ。例えば、重度の寝たきりなどによって「移乗」などの介助機会がない場合、「介助自体が発生していない」ことをもって、調査では「自立(介助なし)」を選択するとしていた。
  厚労省としては、「ケアにかかる手間を正確かつ効率的に推計するため」とするが、重度者であっても寝たきりにさせないためにさまざまな介助の可能性が模索されていることを考えれば、現場の実情が反映されているとは言い難い。介護者団体からも、「私たちの常識では考えられない」という意見も出されている。
  こうした批判を受けて、厚労省は3月24日付で調査員テキストの一部を修正。先のケースでいえば、「自立(介助なし)」とする項目を「介助されていない」とし、特記事項において「介助の必要性があるのかどうか」といった観察結果を記すこととした。
  だが、特記事項が反映されるのは二次判定においてであり、コンピューターによる一次判定においては、「自立」が「介助されていない」という言葉の言い換えになるだけという指摘もある。改編されたコンピューター・ソフトは一般人にとってはブラックボックスに等しく、加えてモデル事業によれば、現行ソフトと比べて軽くなったり、重くなったりという差がそれぞれ2割近く生じている。介護者自身が高齢化し日々介護の重圧に苦しむ中、「今より軽くなるかもしれない」可能性が2割もあるとすれば、「介護の実情を正確に推計する」といっても、国民の実感とのズレはますます大きくなっていく一方だろう。
●  いま一度、基本に立ち返る英断を
  すでに現場では、混乱が始まっている。先に述べたように、介護者自身が高齢化する中、支給限度額ぎりぎりまで介護サービスを使う世帯が増えている。その状態で更新認定などを行い、そこで要介護度が下がってしまえば、支給限度額をオーバーした分はそのまま全額自己負担となり、利用者負担は一気に跳ね上がってしまう。現場のケアマネジャーに聞いても、「そのあたりをどう調整するか、今から頭が痛い」という声が多い。
  いわゆる共助の仕組みである社会保険制度は、被保険者側の信頼が喪失すればたちまち崩壊する。つまり、完全公助の社会保障制度よりも、国民の理解を求める説明責任や情報公開が求められるものであり、それを優先順位の第一に考えなければならない。このあたりの基本的な考え方が、財政悪化を防ぐという焦りの中で抜け落ちてしまっているのではないか。今からでも、新しい要介護認定の仕組みを一時ストップさせるくらいの決断がないと、大変な問題に発展しかねない。
(田中 元 医療・福祉ジャーナリスト)
2009.04.13
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