>  今週のトピックス >  No.1829
勤務場所の多様性は、長時間労働を助長する可能性あり
●  自宅で働いている人は、「持ち帰り残業」をしている可能性が高い
  在宅勤務をはじめとするテレワークなどを導入している企業は、まだそう多くはなく、その働き方が会社や従業員にどのような影響をもたらしているのかはあまり明らかになっていない。今後の新しい働き方をすすめていくうえでも政府は、気にかけているところでもある。そのような中で独立行政法人労働政策研究・研修機構は、平成19年度、20年度にかけて、「働く場所と時間の多様性に関する調査研究」を実施し、その調査結果を発表した。主な内容は、働く場所の多様性に関する企業アンケート調査と、在宅勤務等を導入している企業ヒアリング調査、および働く場所と時間の多様性に関する労働者アンケート調査である。
  それによると、現状では「自宅」で働いている人々の多くが、在宅勤務制度等に基づいて働くよりもいわゆる「持ち帰り残業」をしている可能性が高く、そのために長時間労働になっていること、また「自宅」を含む働く場所の多様性、および労働時間の多様性が長時間労働につながっているという問題点が明らかになった。働く場所と時間の「多様性」に関して、その実態や課題を明確に捉えた調査研究が少ない中で、今回の長期間にわたっての調査結果については、今後の問題を解決していく上で企業側も参考にしていきたいところである。
●  総実労働時間が長い人ほど、「通常の勤務先以外の勤務場所がある」という現状
  また、勤務場所の多様性についての質問に対して、通常の仕事場所以外で仕事をすることが比較的多い場所となると「所属先企業の他事業所」や「顧客先の事務所や工場」「自宅」をあげる人が多く、営業マンなどが日常の顧客を訪問している状況が反映されている。
  勤務場所の多様性はメリットがあるとこれまでいわれてきて、在宅勤務等についても光と影の「光」の部分だけが取り上げられがちであったが、今回の調査はその実態を解明するべく精度の高い調査結果であるといえる。そこで明らかになったのは、総実労働時間別に通常の勤務先以外の勤務場所の有無について見たところ、総実労働時間が長いほど、「ある」と答えた人の割合が高く、これは勤務場所の多様性が長時間労働につながる可能性を示している。
  通常の勤務先以外で仕事をするメリットについての質問には、「所属先企業の他事業所」および「自宅」では「仕事の生産性・効率性が向上する」、「顧客先の事務所や工場」では「顧客サービスが向上する」(39.6%)がそれぞれ第1位の理由になっている。
  一方でデメリットとしては、「所属先企業の他事業所」「顧客先の事務所や工場」では、「長時間労働になりやすい」と答えた割合が一番高く、「自宅」の場合にも「仕事と仕事以外の時間の切り分けが難しい」が第一の理由になっている。
●  在宅勤務制度は、ワーク・ライフ・バランスの重要な施策の1つ
  在宅勤務制度については、企業のワーク・ライフ・バランスの一環として導入することにより従業員のニーズに応えるとともに、企業側も優秀な人材が退職するのを防ぎ、一定の効果を生み出していることは確かである。調査結果でも勤務場所以外で仕事をしていない人が「自宅」での仕事を希望している割合が結構高いことなどから判断すると、週に1、2回の在宅勤務を導入することにより、持ち帰りの残業時間も減るのではないかと分析している。
  完全な在宅勤務制度ではなく、日常のコミュニケーションが取れる程度であれば、本人の働き方に合わせることにより、無駄な通勤時間も削減でき、仕事の生産性があがれば、それはお互いにとって良いことではないだろうか。いずれにしても今後の課題は、一般的な企業が在宅勤務制度等を導入していくうえで、マネジメント体制を確立し、人事評価などについても企業側が明確なスタンスを示せるようになることが重要であろう。
出所:独立行政法人労働政策研究・研修機構「働く場所と時間の多様性に関する調査研究」
  http://www.jil.go.jp/institute/reports/2009/0106.htm
(庄司 英尚 株式会社アイウェーブ代表取締役、
庄司社会保険労務士事務所代表、社会保険労務士)
2009.04.20
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