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2008年度査察は約3億円減の351億円の脱税把握
●  208件を処理し7割強の153件を検察庁に告発
  いわゆる「マルサ」と呼ばれる査察は、脱税でも特に大口・悪質なものが強制調査され、検察当局に告発されて刑事罰の対象となる。国税庁が6月15日に公表した今年3月までの1年間の「2008年度査察白書」によると、査察で摘発した脱税総額は前年度を2.7億円下回る350.7億円だった。検察庁に告発した件数は前年度より5件少ない153件だったが、1件あたり平均の脱税額は同700万円増の1億6,900万円と、3年連続で増加している。
  2008年度1年間に全国の国税局が査察に着手した件数は211件(前年度220件)、継続事案を含む208件(同218件)を処理(検察庁への告発の可否を最終的に判断)し、うち73.6%(同72.5%)にあたる153件を検察庁に告発した。告発分1件あたりの脱税額は前年度より3,200万円少ない1億6,300万円。告発事件のうち、脱税額が3億円以上のものは同6件減の14件、5億円以上では前年度と同じ7件だった。
●  「法人税」に係る告発事件が35件増の97件と大幅増加
  2008年度の脱税総額351億円は、脱税総額3億円以上の大型事案が減少したことなどから、ピークの1988年度(714億円)に比べ5割近くにまで減少している。
  告発分を税目別にみると、「法人税」が前年度から35件増の97件で全体の63%を、脱税総額でも同2倍強増の約186億円で75%を占めた。「所得税」は17件減の40件、約40億円のほか、「消費税」は18件減の12件で、脱税総額も70.5%減の約13億円と大幅に減少した。
  告発件数の多かった業種・取引(5件以上)は、「鉱物・金属材料卸」と「不動産業」がともに14件、「人材派遣業」と「商品・株式取引」がともに11件など。
  脱税の手口としては、鉱物・金属材料卸では売上除外、不動産業では無申告、人材派遣業では、従業員から徴した寮費等の雑収入除外により所得税や法人税を免れたもの、さらに、本来課税仕入に該当しない人件費を課税仕入となる外注費に科目仮装する消費税の脱税が目立った。
●  目立った国際取引・無申告事案
  2008年度中の脱税事案で目立ったのは、国際取引事案や無申告事案など、最近の社会・経済状況を反映したものだった。検察庁に告発された国際取引事案は前年度より10件少ないものの24件と高水準、無申告事案は同5件多い18件となった。
  国際取引事案では、海外の仕入先と通謀の上、仕入代金を水増しして送金し、水増し分の金額については、代表者が海外へ行った際に現金で回収していたA社のケースや、海外の自社工場において製造過程で発生した鉄くずなどの副産物の売上代金を除外するとともに、その代金を海外の金融機関の預金口座で管理するほか、海外の不動産の取得費用に充てていたB社のケースなどが明らかにされている。
  また、無申告事案では、インターネットにより、パチンコ攻略法の情報提供を行い多額の利益を得ていながら、事業実態のない会社名義を利用して、その会社の所得であるように装い、自ら得ていた所得を一切申告していなかったCのケースや、国内に居住しているにもかかわらず、海外に移住したかのように装い、国内での株式取引により得た利益を一切申告していなかったDのケースが報告されている。
  そのほか、金融・証券関連事案(08年度は14件減の15件)では、株取引により多額の利益を得ていたが、自らが経営する小売店の所得のみを申告し、株取引については一切申告していなかったEのケースや、勤務していた会社の親会社から付与されたストックオプションの権利を行使し株式を取得したことにより、多額の利益(給与所得)を得ていたにもかかわらず、利益の一部しか申告していなかったFのケースなどがあった。
(浅野宗玄 税金ジャーナリスト、株式会社タックス・コム代表)
2009.06.22
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