>  今週のトピックス >  No.1873
制度廃止まで3年弱、適格退職年金の現状
  適格退職年金制度の移行期限が、平成24年3月31日に迫っている。制度全体の検討や移行にかかる実務上の手間や時間を考えれば、すでに何らかの対応策を考えておくべきだが、昨年来の景気悪化でそれどころではないというのが、現状だろうか。
●  平成21年3月末で約2万5,000件
  他制度への移行が済んでいない適格退職年金の件数は、平成21年3月末に25,464件。中小企業を中心に多くの企業が手付かずのままとなっている。
  平成19年3月末の適格退職年金の残数は38,885件。その時点で廃止期限まで5年であり、毎年約7,800件の適年を他の制度に移行しないと廃止期限に間に合わない。それにもかかわらず、実際には平成17年度は7,671件、平成18年度6,205件、平成19年度6,059件と、適格退職年金の減少ペースはゆったりしたものであった。平成20年度は7,362件と前年度に比べやや増加したが、あと3年弱で移行を完了するには大幅なペースアップが必要だろう。
●  適格退職年金を移行しないとどうなるか
  適格退職年金を制度の廃止期限までに移行しない場合、その後の契約内容がどうなるかははっきりとしていない点もあるが、平成24年4月以降は税制優遇措置がなくなる可能性が高い。
  まず企業が拠出する適格退職年金の掛金は現在損金算入できるが、それができなくなるかもしれない。受け取り時の税制優遇措置もどうなるかわからない。現状では、従業員が退職時に受け取る退職一時金は退職所得となり、勤続年数に応じた非課税枠が適用され、課税部分についてもその2分の1だけが分離課税される。それが一時所得扱いとなれば、非課税枠は50万円に縮小し、残りは別の所得と一緒に総合課税される。さらに、年金での受け取りに公的年金等控除が適用されなければ、従業員や受給者は不利益を被ることになる。
●  7割以上の企業が移行先未定?
  適格退職年金の移行を促進するため、「適格退職年金の円滑な移行の推進に関する連絡会議(以降、連絡会議)」が厚生労働省、財務省、金融庁、農林水産省、経済産業省、中小企業庁によって昨年設置された。この「連絡会議」が、昨年12月から今年1月にかけて、適格退職年金を持つ企業約3万社を対象に「適格年金の移行に係る実態調査」を実施している。
  約1万社の回答によると、「まだ検討していない」企業が9%。一方「移行先を決めた」企業は26%で「解約決定」が6%、そして「検討中」が58%にものぼる。現状では、解約した企業も含め、7割弱の企業が適年の移行先あるいは適年に代わる制度を決めていないおそれがある。
  また検討中の企業のうち、42%が今年度中に決定予定としているものの、退職金制度を見直す際には、従業員の今後の処遇や資金のやりくりなど、企業の将来像を考慮しなければならず、また給付減額となれば従業員の同意を得ることも必要になってくるので、予定通りにはいかないケースが多い。
  事業主が適年の移行の検討に着手していない理由としては、「まだ時間がある」が41%、「社内の検討体制が整っていない」が29%、「他の業務が忙しい」が22%となっている。
  調査結果からは、企業側の適格退職年金制度廃止に対する意識の低さと、社内で十分な体制をとることができず後回しにされている状況を読み取ることができる。

参考:「適格退職年金の移行に係る実態調査の結果及び分析(事業主版)」
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/nenkin/nenkin/pdf/tekikaku_c_a.pdf

  適格退職年金の制度廃止はすでに決定されていることなので、期限までに制度移行が終わらないと、従業員・受給者は不利益を被る可能性がある。適格退職年金の資産は、本来加入者である従業員や受給者のものである。企業側の都合だけでなく、従業員が不利益を被るという観点から適年の移行を促すというのも一つの方法かも知れない。
(山田静江 CFP®)
2009.07.13
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