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オバマ政権による税制改正案(国際税務他)〜KPMG税理士法人
●  米国雇用の創出を妨げない米国税法に
  2009年5月4日、オバマ政権は税制改正案の概要を発表し、
 (1) 米国雇用の創出を妨げないような米国税法とすること
 (2) 合法的に租税回避を可能とするスキームや富裕層による違法な隠し口座の温床となっている、タックスヘイブン国の利用による租税回避を削減すること
の2項目を明らかにした。
  これらについて解説するのは、KPMG税理士法人が発表した「オバマ政権による税制改正案(国際税務他)」と題したレポートだ。同改正案は、原則2011年度以降に施行されるので、現行の税体系に影響がある場合には、事前に対策を練ることが可能としている。
  レポートによると、オバマ大統領の最重要課題は米国における新規雇用の創出にあるが、今日の米国税法は、国内投資による国内雇用を創出する米国国内企業よりも、国外投資による国外雇用を創出する米国多国籍企業に有利となっていると、オバマ政権は考えている。
●  国外源泉所得への分配費用の損金繰延規則と外国税額控除制度の改正
  そこで、オバマ政権はまず、米国内雇用創出を妨げないためには、米国企業が米国での課税が繰り延べられる低課税国の利益を稼得するために発生する費用を、米国税務上損金計上できないようにする。具体的には、支払利子その他、国外投資に係る費用の損金認識をその投資から生じる利益が国内に還流するまで繰り延べる。ただし、試験研究費については、米国経済において投資意欲を促進するため例外とする。
  また、外国税額控除制度の改正とともに、そのことから得た税収増により、米国での試験研究に対する税額控除制度を恒久化しようとしている(同制度は2009年12月31日に失効する予定となっている)。
  外国税額控除制度を使ったプランニングを抑制するためには、(1)高課税国から選択的に利益を還流して外国税額控除の適用を受けることを避けるため、外国税額控除は連結ベースで国外総所得に対する総外国税額をもとに算定される、つまり、外国子会社をひとつのプールと考える、(2)米国税法に関連しない所得に対して支払われた外国税額は、控除対象外国税額とは見なさないようにする、という2ステップをとる。
●   タックスヘイブン国の取締りの強化
  一方、オバマ政権は、租税回避目的で設立した実態のない会社に対する有利な税務上の取扱いが、米国納税者の米国における租税回避を容易にしていることを問題視している。
  レポートは、米国法人が日本に新しい工場を建設するために投資を行うにあたり、ケイマン持株会社、ケイマン持株会社の傘下のケイマン孫会社と工場を所有することとなる日本孫会社の3つの新法人を設立するケースを例示している。
  ケイマン孫会社は日本孫会社に建設資金を貸し付ける。貸付利子はケイマン孫会社の所得であり、日本孫会社で損金計上される。こうして、高課税国の日本から、非課税国のケイマンに所得移転される。米国税法上、本来であれば、米国法人がタックスヘイブン国と他国にそれぞれ外国子会社を設立した場合において、両子会社間で移転された所得は米国法人にとって非積極的所得とされ、米国法人の合算課税の対象となる。
●   チェックザボックス規則の改正
  しかし、チェックザボックス規則により、これら2つの外国孫会社が独立した法人格のない事業体(つまり、ケイマン持株会社の支店)と見なされて、ケイマン孫会社で発生した受取利子と日本孫会社で発生した支払利子が相殺されることとなり、受取利子は米国における合算課税の対象外となる。結果、日本では支払利息が損金算入されるものの、米国ではケイマン孫会社の受取利子を合算課税の対象としないことが可能となっている。
  そこで、オバマ政権は、国外に投資する米国法人がその外国孫会社(この例では、日本孫会社)を米国税務上チェックザボックス規則により法人格のない事業体(つまり支店)と見なすことがないように改正する考えだ。米国法人の直接所有の孫会社および外国子会社と同一国にある孫会社(この例では、ケイマン孫会社)に対しては、現行法どおりチェックザボックス規則の適用が可能である。
(浅野宗玄 税金ジャーナリスト、株式会社タックス・コム代表)
2009.07.21
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