>  今週のトピックス >  No.1899
先進医療に備える保険のはなし
●  重粒子線治療は300万円超
  今やすっかり生保各社の主戦場となった医療保険等の第三分野市場であるが、最近は先進医療費を補てんする保険商品が増えている。
  先進医療費といえば、その技術料が公的医療保険の対象とならず全額自己負担となることをポイントとして、多くの生命保険募集人が見込客に対してニーズ喚起を行っている。そして、その先進医療の中で必ずといっていいほど登場してくるのが「重粒子線治療」や「陽子線治療」など、がんに対する放射線治療である。
  例えば、重粒子線治療はがん細胞の部分を正確に攻撃し、その周辺の正常組織にかかる負担は少ない効果的な治療法であるが、その技術料が高額なことで知られている。技術料の平均額は300万円を超えており、このほかに、公的医療保険の対象となる部分の自己負担分や、諸々の雑費などの負担を考えると、入院時の金銭的な負担はかなりの額に達する。
【高額な先進医療の技術料(1件あたり金額)のベスト3】
技術名 1件あたり金額 年間実施件数
重粒子線治療
(固形がんに係るものに限る)
3,080,412円 634件
悪性腫瘍に対する陽子線治療
(固形がんに係るものに限る)
2,850,879円 611件
脊椎腫瘍に対する腫瘍脊椎骨全摘術
(原発性脊椎腫瘍または転移性脊椎腫瘍に係るものに限る)
2,016,400円 16件
  (中央社会保健医療協議会「平成20年6月30日時点における 先進医療の実績報告について」)
●  一部の生命保険募集人には懐疑的な声も
  確かに重粒子線治療などは高額な技術料がかかってしまうのは事実である。しかし、一部の募集人においては、いたずらに先進医療の技術料の高額さを喧伝することに懐疑的な声がないわけではない。
  それは実施する医療機関数の少なさと、年間実施件数の少なさにある。重粒子線・陽子線の両者を合わせても、先進医療を行っている医療機関は全国でもひと桁に過ぎない(平成21年8月1日現在)。年間実施件数にしても、先の表にあるように合計で1,200件超に過ぎない。
  がんはご存じのとおり、日本人の死亡原因のトップであり、年間で34万2,849人の方が、がんにより命を落としている(厚生労働省「平成20年 人口動態統計月報年計(概数)の概況」)。この34万人強の人数に対し、1,245件はあまりにも少ない数字であると言わざるを得ない。
  このことは、金銭的な問題のほかに、地理的な要因や実施施設の少なさなどにより、たとえ患者側が希望したとしても、多くの場合、重粒子線治療等の先進医療が受けられないということを意味する。
  実際、がん保険をメイン商品として扱い、かなりの入院給付金等の支払い実績のある、とある代理店の話でも、入院・治療費用としての請求額は数十万円単位が多く、100万円を超えることのほうが珍しいという。もちろん、「重粒子線」や「陽子線」の治療名は見たことがないとのことである。
●  それでも心配な入院費用
  しかし、がん治療には相応の費用がかかるのは事実である。
  以下は統計データによるがん治療にかかる入院費用と平均在院日数である。
【がん治療にかかる1日あたりの入院費用と平均在院日数】
疾病名 1日あたりの入院費用(※1) 平均在院日数(※2)
胃がん 36,230円 34.6日
直腸がん 41,578円 33.6日
乳がん 43,337円 17.0日
子宮がん 47,189円 21.6日
白血病 50,847円 57.9日
※1 厚生労働省「平成20年 社会医療診療行為別調査」をもとに セールス手帖社保険FPS研究所試算
※2 厚生労働省「平成17年 患者調査」退院患者平均在院日数より
  これを見る限り、従来のような1日あたり5,000円や1万円程度の入院給付金の生命保険では心もとなく感じるのは当然である。だからといって、重粒子線治療のように技術料だけで300万円を超える先進医療を受ける可能性もまた低いと言わざるを得ない。
  生命保険の加入を勧められるときに、「万一の場合に備えて…」という言葉をよく聞くが、重粒子線などの先進医療の治療の恩恵にあずかれる確率というのも、限りなく「万一」に近い。
  万一に備えて準備するか、そこまで必要ないと判断するか、いずれにしても最後は自己責任ということになるのであろうが、想定できないリスクに対する備えが保険の役割であるのならば、先進医療に備える保険についての加入の是非を検討することは意味のあるものなのかもしれない。
2009.08.31
前のページにもどる
ページトップへ