> 今週のトピックス > No.1913 |
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国際会計基準の適用で重くなる退職金・企業年金の負担 | ||||||||
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![]() ![]() 日本の会計基準を国際会計基準(IAS=International Accounting Standards)に近づけ、最終的に共通化するための作業が大詰めを迎えている。国際会計基準とは、国際会計基準審議会(IASB)によって定められる会計ルール。すでに100カ国以上が採用しており、EUや中国では上場企業に対して強制適用されている。日本では、2015〜16年に上場企業へ強制適用される見込みだが、その最終判断は2012年中に下される予定だ。
![]() ● 国際会計基準(IAS)適用で変わる日本の会計ルール
会計の役割は、企業の経済活動を記録、計算、管理することで、その企業の財務状況を情報(決算書類など)として提供することにある。財務情報は経営や投資などを行うときの大事な判断材料。企業活動の国際化が進む中、会計基準の共通化は避けられない大きな課題である。
とはいえ、それまでのルールを変えるのは簡単なことではない。経理担当者が行う実務的な処理が変わるのはもちろんのこと、会社経営のかじ取りまで変更しなければならない可能性がある。 例えば、今の日本の会計ルールでは、商品を会社から出荷した時点で売上として計上することも認められているが、IASでは取引先が受取った時点など確実に相手に商品が渡った段階で売上を計上することとされている。決算月に駆け込みで売上を増やすということが難しくなるわけだ。 このほか、期末の棚卸資産の原価を計算するとき、後から仕入れた商品を先に販売したとする方法(後入先出法)が認められなくなる、企業が所有している株などの金融商品の価格変動を加えた「包括利益」を決算書類に表示しなければならないなど、大小さまざまなルール変更が予定されている。単に会社のシステムを変えるだけでは済まないのだ。 ![]() ● IAS適用で退職金・企業年金の運用が企業損益に大きな影響
IASへの共通化の中で影響が大きいとされるもののひとつが、企業年金に関する扱いである。企業年金とは日本企業の多くが取り入れている退職金制度のひとつで、退職金の原資を外部積立して年金形式で退職者に支払うというしくみ。主なものに、確定給付企業年金や厚生年金基金がある。
企業年金の会計は、以前は企業決算とは切り離されていたが、2000年に退職給付会計が適用された。退職金や企業年金は従業員に将来支払うことになる債務なので、当期までに発生した分とすでに積み立てている年金資産との差額(不足分)を計上しておくべきという考えだ。 企業年金の年金資産は値動きのある有価証券で運用されている。昨年のように株価の大きな変動があったときには、予定されていた利回りを達成できなかったことで、年金資産の「積立不足」が生じることがある。その積立不足は数年をかけて償却(企業が追加の掛金を負担)することになっているが、IASが適用されると不足額は全額その年の決算時に計上しなければならなくなる。年金資産の積立不足という本業以外の要因が、大きな足かせとなるかもしれないのだ。 適格年金の廃止等により、ここ数年退職金・企業年金の見直しをした企業のうち、前述の退職給付会計を意識した企業の多くは、一部あるいは全部に確定拠出企業年金制度を導入した。確定拠出企業年金は従業員が運用リスクを負うため、退職給付債務が発生しない制度だからだ。従業員に運用させる確定拠出年金は日本の風土に合わないと導入を見送った企業も少なくないが、IAS適用により、再び退職金・企業年金制度の見直しの機運が高まるかもしれない。 参考:日本経済新聞(2009年9月1日)
![]() (山田静江 CFP®)
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2009.09.28 |
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