>  今週のトピックス >  No.1917
出産育児一時金は、原則42万円に
●  4万円アップで負担軽減
  出産育児支援については、政府がさまざまな取り組みを行っているが、今回の出産育児一時金の支給額アップもその1つといえる。
  各医療保険者の被保険者(被扶養者)が出産したときに支給される出産育児一時金(家族出産育児一時金)は、これまで原則38万円となっていたが、平成21年10月1日以降に出産した場合には、原則42万円(産科医療補償制度に加入していない医療機関等において出産した場合は、39万円)の支給に変更になった。
  今回4万円のアップになったが、その理由は、平成19年度の各都道府県の公的病院、私的病院、診療所別の出産に要する費用の実勢価格が、日本産婦人科医会によると約39万円であったことから、それらを踏まえて35万円から4万円引き上げたようである。結果的には、平成21年1月1日に施行された産科医療補償制度の掛金3万円分と併せると、42万円への引き上げになり、被保険者の負担も軽減されることは確かである。
●  今回の改正により、まとまった出産費用の準備が不要に
  これまでは、出産にかかる費用を病院などに支払った後、被保険者の方から申請し、各医療保険者から出産育児一時金を事後払いする形であった。ところがこれでは負担が大きかったため、例外として各医療保険者に事前申請することにより、医療機関等が被保険者に代わって出産育児一時金を受け取ることができるようになっていた(受取代理制度)。
  この例外としての受取代理制度を改善して、医療機関等への直接支払制度を原則としたことが今回の2つ目の改正点である。この改正にはさまざまな問題があったが、平成21年10月からは、出産にかかる費用は、出産育児一時金を直接充てることができるようになり、原則として各医療保険者から直接病院などに出産育児一時金を支払う仕組みになったので、被保険者はまとまったお金がなくても安心して出産することが可能となった。
  実務面のポイントは、出産にかかった費用が出産育児一時金の支給額の範囲内であった場合には、その差額分を出産後、医療保険者に請求し差額分を支給してもらい、逆に出産にかかった費用が出産育児一時金の支給額を超える場合には、その超えた額を医療機関等に支払うこととなるので、特に出産育児一時金の範囲内であったときの差額請求を忘れないようにしたい。
●  産科開業医が資金ショートするという問題
  出産育児一時金等の4万円の引き上げと、医療機関等への直接支払制度は、緊急的な少子化対策として平成21年10月1日から平成23年3月31日までの暫定的な措置である。厚生労働省では、平成23年度以降の出産育児一時金制度については、妊産婦など被保険者等の経済的負担の軽減を図るための保険給付のあり方および費用負担のあり方について引き続き検討を行い、検討結果に基づき対応すると発表しているが、わが国の少子化の現状を考えれば、その後も継続していくことが望ましい。
  しかしながらこの改正に関しては、大きな問題もある。病院や医療機関では、窓口払いから保険支払いへと変わることにより、実際に出産の2〜3カ月後まで医療機関の収入がほとんどなくなってしまう。このため、開業医の多くから資金ショートしてしまうという悲鳴が上がっている。その間の資金繰りについては、厚生労働省の外郭団体である独立行政法人・福祉医療機構が支援することとなっているが、有利子(1.6%)であることから開業医の間では、この直接支払制度に対しての反対の声も上がってきている。
  それらを受けて長妻厚生労働大臣は、改正直前の9月29日になって医療機関によっては資金繰りが悪化するおそれがあるとして、対応が難しい医療機関には実施を半年間猶予することを発表したが、被保険者側からすると余計わかりにくく混乱する可能性もある。
  医療機関への直接払制度は、病院側の未収金対策と被保険者たちの軽減負担を考えてできた制度であるが、それが双方にとって逆に負担になるようでは、望ましくない。今後は、政府が全体のバランスをとりながら運用面などを少しずつ改善していく必要があるのではないだろうか。
参考:全国健康保険協会HP
http://www.kyoukaikenpo.or.jp/1.html
(庄司 英尚 株式会社アイウェーブ代表取締役、
庄司社会保険労務士事務所代表、社会保険労務士)
2009.10.05
前のページにもどる
ページトップへ