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少ない実地調査で所得税申告漏れの7割を把握
●  48万6千件から9,155億円の申告漏れを把握
  近年の所得税調査の特徴は、高額・悪質と見込まれるものを優先して深度ある調査(特別調査・一般調査)を重点的・集中的に行い、一方で実地調査までには至らないものは電話や来署依頼による“簡易な接触”で済ませる調査方針にある。2008事務年度の調査でも、調査件数では約14%の実地調査で、申告漏れ所得金額全体の約7割を把握しており、近年は実地調査を中心とした効率的な所得税調査が続いている。
  国税庁がこのほど公表した2008事務年度の個人事業者に対する所得税調査状況によると、今年6月までの1年間の所得税調査は73万3千件に対して行われ、うち66.3%にあたる48万6千件から9,155億円の申告漏れ所得を見つけた。追徴税額は1,216億円だった。1件あたりの平均では125万円の申告漏れに対し17万円を追徴している。
●  1件あたり申告漏れ、全体平均125万円に対し実地調査は887万円
  実地調査における特別調査・一般調査は6万件だったが、うち87.9%にあたる5万3千件から総額5,349億円の申告漏れ所得を見つけ、1,005億円を追徴。件数では全体の8.2%に過ぎないが、申告漏れ所得金額全体の約6割を占めた。調査1件あたりの申告漏れは887万円と、全体の平均125万円を大きく上回る。
  また、実地調査に含まれる着眼調査(資料情報や事業実態の解明を通じて行う短期間の調査)は、調査件数全体の6.0%の4万4千件行われ、うち70.5%の3万1千件から958億円の申告漏れを見つけ、61億円を追徴した。1件あたり平均申告漏れは216万円。
  一方、簡易な接触は、62万8千件行われ、うち64.0%の40万2千件から2,848億円の申告漏れを見つけ150億円を追徴。1件あたりの平均申告漏れは45万円だった。
  このように、実地調査では、全体の1割強の調査件数で申告漏れ全体の約7割を把握しており、高額・悪質な事案を優先して深度ある調査を的確に実施する一方、短期間で申告漏れ所得等の把握を行う効率的・効果的な所得税調査が実施されている。なお、業種別1件あたりの申告漏れ所得高額業種は、「貸金業」が4,842万円でトップ、「キャバレー」(2,725万円)、「風俗業」(2,520万円)がワースト3。
●  過払い金返還請求ビジネスで79億円の申告漏れ把握
  国税当局は、社会的な注目や関心の高い事案に対して的確に調査を実施していくことは極めて重要との考えから、各種情報の収集・分析に努め、重点的に取り組んでいる。最近マスコミに取り上げられている、払い過ぎた借金の利息を取り戻す「過払い金返還請求ビジネス」に係る調査もその一つ。
  2008事務年度の所得税調査においては、過払い金返還請求ビジネスを行う弁護士や認定司法書士について804件を実地調査したところ、その86.7%にあたる697件から総額79億円にのぼる申告漏れ所得金額を把握し、28億円(加算税を含む)を追徴した。うち、81件は、報酬を故意に簿外処理するなど悪質な脱税と認定し、重加算税を賦課している。
  実地調査1件平均の申告漏れ所得金額は984万円で、所得税全体の実地調査(特別・一般)の1件平均の申告漏れ所得金額887万円を若干上回っており、1件あたり平均の追徴税額は343万円で、所得税全体の実地調査1件平均の追徴税額167万円の2.1倍となる。
  申告漏れの手口をみると、返還の成功報酬を隠匿するため、過払い金の全部または一部を業務用の口座とは別に開設した口座に振り込ませたり、依頼者から預かった通帳の口座に過払い金を振り込むよう貸金業者に指定し、通帳を返す前に代理人報酬分を現金で引き出すなど悪質な者も少なくないことから、今後も同庁では目を光らせていく方針だ。
(浅野宗玄 税金ジャーナリスト、株式会社タックス・コム代表)
2009.11.02
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