>  今週のトピックス >  No.1962
相続税調査、海外関連や無申告事案を積極的に調査
●  3年連続で4,000億円超の申告漏れを把握
  国税庁がこのほど発表した2008事務年度分の相続税調査事績によると、今年6月までの1年間に2006年分および2007年分の申告事案を中心に1万4,110件の調査を実施し、うち85.1%にあたる1万2,008件から総額4,095億円の申告漏れ課税価格を把握した。前年度に比べ、調査件数は1.9%増、申告漏れ件数は1.0%増、申告漏れ課税価格は0.6%減少したが、3年連続で4,000億円を超えている。1件あたりの申告漏れ課税価格では1.6%減の3,410万円となった。
  加算税131億円を含めた追徴税額は931億円(対前年度比1.1%減)で、申告漏れ1件あたりでは775万円(同2.1%減)となる。仮装・隠ぺいなど意図的な不正を行ったとして重加算税を賦課された件数は、申告漏れ件数の17.1%にあたる2,052件(同7.2%増)で、その不正申告漏れ課税価格は781億円(同0.2%減)にのぼった。申告漏れのあった相続財産の金額の内訳は、「現金・預貯金等」が1,380億円で33.6%を占め最多。
  調査事例をみると、資料情報から、被相続人A(自営業)の相続財産の申告漏れが疑われたことから、調査した結果、死亡前にAから財産管理を頼まれた相続人は、自宅周辺の金融機関は税務当局に把握されやすいと考え、死亡前の数年間にAの自宅周辺に預け入れられていた12億円を超える預貯金を解約して現金に換えて自宅や工場等の複数の金庫に隠匿し、申告から除外していたものがある。重加算税を含め5億円強が追徴されている。
●  海外資産関連は過去最高の353億円の申告漏れ
  一方、海外の相続財産が増加傾向にあることから、国税当局では国際税務専門官等を中心に海外資産の実態把握や的確な調査を実施。同事務年度は475件(対前事務年度比16.7%増)の調査を実施した結果、377件(同12.9%増)から、前事務年度比14.5%増の353億円と過去最高の申告漏れ課税価格を把握した。1件当たりの申告漏れは9,362万円(同1.5%増)と、全体の申告漏れ課税価格の平均3,410万円の2.7倍にのぼる。
  調査事例では、海外預金・有価証券を申告から除外したものがある。被相続人B(会社役員・日本居住)は、租税条約に基づき外国税務当局から受領した情報等から、海外預金等を保有していたことが想定されたが、相続税の申告に海外預金等は含まれていなかったため、調査が行われた。その結果、海外に多額の預金・有価証券の存在を認識し、相続手続きを行っていたにもかかわらず、Bが生前、「日本に取り寄せない限り、税務署にばれない」と言っていたことなどから、国内にある相続財産のみ申告し、海外の相続財産を申告から除外していたことが判明した。申告漏れ課税価格2億2,300万円に対し、重加算税を含め1億1,800万円が追徴されている。
●  無申告事案では661億円の申告漏れを把握
  また、資料情報等から申告納税義務があるにもかかわらず無申告と想定される事案に係る調査は、555件(対前事務年度比10.1%増)に対して行われ、このうち申告漏れ等があった件数は調査全体の84.1%にあたる467件(同11.2%増)で、その申告漏れ課税価格は661億円(同2.5%増)、申告漏れ本税額は41億円(同8.9%減)、1件あたりの申告漏れ課税価格は881万円(同17.0%減)だった。
  調査事例では、相続前に現金化・家族名義にされていた財産を隠し申告しなかったものがある。資料情報から、被相続人C(自営業)に係る相続税の申告が必要なことが想定されたが、無申告だったため調査が行われた。その結果、自宅の金庫から被相続人自筆の財産管理用と思われるメモが発見され、そのメモを元に相続人を追及したところ、数億円の現金が店舗内のダンボールに箱詰めにされ保管されていたことや、複数の金融機関に多額の預貯金・有価証券が預け入れられていたことが判明した。
  Cおよび相続人は、相続税の課税を免れるため、財産を現金化したり、相続人名義への分散を行うなどして、相続財産を隠していたことが判明した。相続人は、これらの財産がCに帰属する財産であり、相続税の申告の必要性を十分認識しながら、申告を行っていなかったことが明らかになった。申告漏れ課税価格7億3,500万円に対し、重加算税を含む2億7,200万円が追徴されている。
(浅野宗玄 税金ジャーナリスト、株式会社タックス・コム代表)
2009.12.21
前のページにもどる
ページトップへ