>  今週のトピックス >  No.1965
誤解しやすい年次有給休暇の実務
●  トラブルは未然に防ぐ
  前回(トピックス1957)では、年次有給休暇の基礎知識についてまとめてみたが、パートタイマーやアルバイトにも年次有給休暇を付与しなければならないということを知ってびっくりした方もいると思う。今回は、前回に引き続き「誤解しやすい年次有給休暇の実務」について、ポイントを押さえるとともに従業員とのトラブルを未然に防ぐことができるように参考になる事例なども含めてまとめていくこととする。
●  年次有給休暇の事後請求の実務には要注意
  年次有給休暇の付与については、労働基準法では労働者の請求に基づき付与することになっている。したがって、労働者が風邪で休んだからといって勝手に会社が年次有給休暇を取得したものとして処理し、給与計算などをすると想定外のことが起こる。
  本人に確認をしないで、年次有給休暇を申請したとみなして処理をしていると、本人からは「私は請求もしていないのに年次有給休暇を勝手に消化された」といわれ、トラブルになってしまうことが意外にも多い。退職時にまとめて取得したい人もいるし、旅行に行くためにまとめて取得しようとしている人も多く、勝手な判断は結果的に労働者の不満ばかりが残りお互いにとってよくない。
  一般的に企業では、就業規則により、原則事前に申請をして会社が認めた場合に限り、年次有給休暇を取得することができることになっている。しかしながら、当日に体調が悪いからといって休んでも会社は例外として出社後、その休んだ日について本人が年次有給休暇の申請を出せば、年次有給休暇として処理する会社も多いのが現状だ。それは、あくまで会社が恩恵で特別に年次有給休暇扱いをしてあげているだけであって、会社側が同意しなければ年次有給休暇扱いにする必要はないということを理解してほしい。あくまで事前請求が原則で、例外の場合であっても本人の請求が大前提であることを忘れてはならない。
●  年次有給休暇の時季変更権
  労働基準法では、労働者が年次有給休暇を請求してきた場合、請求された時季に年次有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合は、他の時季に与えることができることになっている。
  事業の正常な運営を妨げる場合とは、例えば、年末や需要期などの特に業務繁忙な時期などが考えられる。また同一時期に多数の労働者が休暇請求をしたため全員に休暇を与えることができないという場合も同様である。しかしながら、年中忙しいからとか人がいないからなどの理由で、使用者がずっと年次有給休暇の時季変更権を使うということはできない。
  実務上の相談で多いのは、退職時の年次有給休暇の取り扱いである。退職時にまとめて労働者から年次有給休暇を請求され、「そんなのは認めない」という経営者も中にはいるが、原則として退職日を超えて時季変更権は、行使できないので労働者の請求を拒否することができないということになってしまう。
  しかしながら会社側も労働者にいきなり退職届を持参されて、「2週間後に辞めますので明日から全部残っている年次有給休暇で処理してください」といわれても、困ってしまう。
  会社は退職時のルールとして、例えば1カ月前に退職願を提出してもらい、業務の引継ぎをきちんと終了させて上司の承認を得ることなどを就業規則で定めておくことで、まずは労働者に義務の履行の重要性を訴えることも大事である。労働者の権利を主張する前に義務を履行するように社内ルールを徹底的に周知することが、トラブルを予防するコツともいえる。いずれにしても就業規則の定め方が大きなポイントになるので、これを機会に見直してみるのがよいのではないだろうか。
(庄司 英尚 株式会社アイウェーブ代表取締役、
庄司社会保険労務士事務所代表、社会保険労務士)
2009.12.28
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