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信託を活用した事業承継についての事業承継税制適用は見送りに
●  信託を活用した事業承継における相続税納税猶予制度適用は引き続き検討事項に
  昨年末公表された「平成22年度税制改正大綱」によって改正となる税制項目や内容が明らかとなったが、ここでは今回見送りとなった「信託を活用した事業承継」への税制措置について見てみたい。
  中小企業庁では平成20年6月に設置された「信託を活用した中小企業の事業承継円滑化に関する研究会」において有効な事業承継の手法としての「信託を活用した事業承継」が研究されており、すでに平成20年9月に中間整理という形で信託スキームについての一つの考え方が提示されている。経済産業省ではこの方法についても納税猶予制度の適用対象とすべく税制改正の要望事項としていたが、今回は見送りとなり引き続き検討事項とするという結果に終わった。
●  信託を活用した事業承継とは
  事業承継を考える場合、経営者が後継者に対して相続または贈与によって自社株を移行させる形が一般的であり、そのために生前贈与や遺言を活用することとなる。一方、信託活用の一例として遺言代用信託を活用する場合には、経営者(委託者)が生前に自社株を対象に信託を設定し、当初は自分を受益者、死亡時には後継者(子)が受益権を取得することを受託機関(信託銀行等)との信託契約で定めることになる。そうすることで経営者は生存中に引き続き経営権を維持しつつ自分の死亡時には後継者が受益権を取得することで確実な経営権の移行が可能となる。また、後継者は相続開始と同時に「受益者」となり経営上の空白期間が生じない。信託の活用によるメリットとしては、(1)事業承継の確実性・円滑性、(2)後継者の地位の安定性、(3)議決権の分散化の防止、(4)財産管理の安定性、などが挙げられている。
●  中小企業の事業承継を目的とした信託活用の浸透はこれから
  このような手法の研究がスタートした背景には、約85年ぶりの信託法全面改正(平成19年9月施行)によって中小企業の事業承継の円滑化に活用可能な信託の類型が創設または明確化されたにもかかわらず、信託といえば投資信託や資産流動化目的の信託のイメージが強いという理由や、会社法の規定と議決権行使の指図権との関係や、民法の遺留分に関する規定と信託受益権との関係が整理されておらず信託機関としても商品の展開に慎重であったため、事業承継を目的とした信託の活用例があまり多くなかったという状況があったようだ。現時点では上述のとおり平成20年9月には中間整理という形で一つの考え方が提示されているが、有効な事業承継対策としてさらに検討を進めることもこの中間整理ではうたわれている。
●  相続税の納税猶予制度との関係
  また、この中間整理では、「取引相場のない株式等に係る相続税の納税猶予制度」の適用については、相続の対象となる信託受益権を株式と同一視できるかどうかについての検討の必要性が指摘されている。例えば、相続人や被相続人の納税猶予のための要件をどのように判定するのかなどの考え方の整理や、「議決権行使の指図権」に関する相続税法上の評価の検討などである。
  以上のように、信託を活用した事業承継についてはまだまだ整理されるべき問題点も多く存在しており、これからも検討が重ねられていくことになると思われるが、新たな信託商品の開発や税制との関わりも十分に想定される内容でもあり、今後の経緯に注目したいテーマといえそうだ。
参考資料:経済産業省「平成22年度税制改正について」
http://www.meti.go.jp/policymeeting/2009/pdf/13_03.pdf
 中小企業庁「信託を活用した中小企業の事業承継円滑化に関する研究会における 中間整理について」
http://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2008/080901sintaku.htm
2010.01.12
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