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国際課税、トリガー税率引下げと適用除外基準の見直し
●  トリガー税率を25%から20%以下に引下げ
  外国子会社合算税制いわゆるタックス・ヘイブン対策税制は、日本企業が税負担の著しく低い軽課税国にある実体のない子会社を利用して、租税回避を行うことを防止する制度である。外国子会社の法人税負担率が「25%以下」の場合、その所得に相当する金額(持分相当額)を日本の親会社の所得とみなし、日本で課税する。2010年度税制改正では、いわゆるトリガー税率が現行の25%から20%以下に引き下げられる。
  トリガー税率とは、外国子会社合算課税の適用対象となるか否かを判定するための基準税率のこと。トリガー税率が現行の25%に設定された1992年当時のわが国の法人税の実効税率は50%程度で、諸外国とはそれほど違いがなかった。しかし、その後、各国は法人税率の引下げを行い、現行のままではタックス・ヘイブン国以外の国々への進出企業まで、外国合算子会社税制の対象となる可能性が出てきた。
  特に2008年以降、中国(25.0%)、マレーシア(25.0%)、ベトナム(25.0%)、韓国(22%:2010年)のアジア主要4カ国が軒並み法人税率を引き下げている。これら4カ国に進出している子会社数は、外国子会社約1万7千社のうち3割強を占める(2007年海外事業活動基本調査)。これに伴い、企業がタックス・ヘイブン対策税制に割く事務負担は急上昇し、特に、中国子会社は、申告作業の実に99%が最終的な合算課税に結びついていない。
  2010年度税制改正において、トリガー税率が25%から20%以下に引き下げられれば、外国子会社の3割強が申告不要となり、企業の税務負担が大幅に軽減されるとみられている。
●  実体のある事業持株会社、物流統括会社を除外
  タックス・ヘイブン対策税制では、実体のある事業を行っている場合など、一定の条件(適用除外基準)を満たす場合には、課税の対象とならないが、2010年度税制改正では、この適用除外基準が経済実態に即して見直される。
  まず、納税義務者要件である内国法人等の海外子会社に対する直接・間接の株式等の保有割合が、事務負担等の軽減を目的に、10%以上に引き上げられる。
  また、日本企業は、アジアや欧州などの地域ごとの海外拠点を統括する統括会社(地域の「ミニ本社」)を活用した実体のあるビジネスをしているにもかかわらず、関連会社間の取引や配当収入が多いことから、課税対象となるケースがあるので、適用除外基準を見直す。
  具体的には、事業持株会社の場合、「株式の保有」が主たる事業とされ、事業基準を充足しないので、「統括会社」が保有する「被統括会社」の株式は、事業基準の判定上「株式」に該当しないものとする。また、物流統括会社の場合、仕入も売上も関連者との取引が50%以上であることが多く、非関連者基準を充足しないので、「統括会社」が「被統括会社」と行う取引は、卸売業の非関連者基準の判定上、「関連者取引」に該当しないものとする。
  このように適用除外基準を緩和することによって、実体のある事業持株会社や物流統括会社が外国会社合算税制の対象外となり、日本企業によるさらなる海外市場の開拓、その果実の活用に弾みがつくことが期待されている。これらの見直しに伴い、適用除外基準の事業基準・実体基準・管理支配基準を満たす場合は、人件費の10%相当額を合算所得から控除する人件費控除措置を撤廃する。
●  資産性所得合算課税制度の導入
  一方で、適用除外基準を満たす子会社は課税されないため、株式や債券の保有等から得られる資産性所得を子会社に付け替える租税回避に対応できない。そこで、
  (1) 持株割合10%未満の株式に係る配当・株式譲渡益(取引所・店頭で譲渡されるもの)
  (2) 債券の利子・譲渡益(取引所・店頭で譲渡されるもの)
  (3) ロイヤリティ(わが国で開発された権利が海外子会社に付け替えられたものとして一定の場合のみ)
  (4) 船舶・航空機の貸付による所得
などの資産性所得は合算対象に含める資産性所得合算課税制度が導入される。
(浅野宗玄 税金ジャーナリスト、株式会社タックス・コム代表)
2010.02.01
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