>  今週のトピックス >  No.1993
注目される高齢者専用賃貸住宅
  高齢化が進む日本では、高齢者が安心して住める住居の確保が重要な課題となっている。その解決策の一つとして創設されたのが「高齢者専用賃貸住宅(高専賃)」である。
  高専賃とは、「高齢者の住居の安定を確保する法律」に基づいて整備された『高齢者世帯の入居を拒まない賃貸住宅の登録・閲覧制度』に登録された「高齢者円滑入居賃貸住宅」のうち、専ら高齢者を賃借人とする賃貸住宅のことである。
  高専賃には、一定レベル以上の設備やサービスを備え、自治体の財政支援を受けられる「高齢者優良賃貸住宅(高優賃)」や、一定の基準を満たすことで、有料老人ホームとしての届出をしなくても、生活支援サービスを提供できる「適合型高齢者専用賃貸住宅(適合高専賃)」もある。
  (1)登録制度の創設や、(2)バリアフリー化住宅や高齢者向けサービスを提供する住宅の供給の促進、さらに(3)高齢者が終身住み続けることができる「終身建物賃貸借制度」や「家賃保証制度」の創設により、国は高齢者が安心して生活できる環境の提供を目指している。
●  柔軟な運営が可能な適合型
  高専賃の中でも特に注目されているのが「適合高専賃」だ。高専賃のうち各戸の広さが25u以上(居間、食堂、台所などが共同で十分な広さがあれば18u以上で可)、前払い家賃の保全措置を講じていること、食事・介護・家事・健康管理のいずれかのサービスを提供していることなどの条件を満たしているものが適合高専賃と認められる。
  適合高専賃のメリットは、食事等のサービスを提供していても、有料老人ホームの届出が必要ないということだ。
  平成18年に老人福祉法が改正され、食事、家事、介護、健康のいずれかのサービスを提供する住宅や施設(高齢者1人以上を対象)は、有料老人ホームとして都道府県への届出が義務付けられることになった。
  有料老人ホームは煩雑な書類の提出が義務付けられ、さまざまな規制もある。また総量規制により、自治体によっては介護付き有料老人ホームの新設は難しい。しかし適合高専賃であれば、単なる「食事付きの高齢者住宅」でも構わない。
  もうひとつのメリットは、適合高専賃として届け出れば、介護保険の特定施設として包括的な介護サービスを提供できることだ。特定施設になれば、介護型有料老人ホームのような24時間体制での介護も提供できる。
  つまり、食事や家事などの生活援助だけを行う健康な人向けの高齢者住宅から、介護型有料老人ホームのような高齢者住宅まで、多様な展開が可能なのである。
●  要介護者をとりまく環境は激変
  高齢化の進展に伴う社会保険制度の財政難は深刻な問題だ。そのため、公的医療制度や公的介護保険制度は、利用者の自己負担を増やし、施設から在宅での療養や介護を促す方向への改正が行われた。
  中でも衝撃的だったのは、療養病床の大幅な削減が決まったことだろう。当初の方針では、療養病床のうち介護型(13万床)は平成23年度末までに全廃、医療型(25万床)についても、平成24年度までに15万床にまで減らすというものだった。
  重度の要介護者の受け入れ先としては、比較的低価格で24時間介護が受けられる、介護保険の3施設(特別養護老人ホーム=特養、老人保健施設=老健、療養病床)の人気が高い。しかし特養はほとんど空きがない状態が続いており、老健も増え続ける要介護者すべてを受け入れることはできない。こういった状況での療養病床の全廃は、多くの介護難民を生み出す可能性がある。
  全廃される療養病床の受け皿としては、自宅での介護のほか、病院と提携した介護型有料老人ホームや高専賃が候補となる。どちらも従来は医療法人による経営は禁止されていたが、平成18年には有料老人ホームの、さらに平成19年には高専賃の経営が認められることになった。今後は病院の多角経営の一環としての高齢者住宅が増えていくかもしれない。
(山田静江 CFP®)
2010.02.22
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