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ホステスの源泉税の控除額を巡り国税側が逆転敗訴
●  控除額は、実際の勤務日数に応じた額か報酬の支払期間に応じた額か
  キャバレーやクラブなどで働くホステスの課税所得を計算する際、ホステスの報酬から差し引くことのできる控除額が、実際の勤務日数に応じた額か、報酬の支払期間に応じた額かが争われた訴訟において、最高裁第3小法廷(田原睦夫裁判長)は上告審判決で、報酬の支払期間に応じた額とすべきとの初判断を示し、国税当局の主張を認めた一、二審判決を破棄、審理を高裁に差し戻し、国税側が逆転敗訴した。
  この事案は、東京や神奈川などでパブクラブなどを経営する納税者らが、ホステスと15日ごとに報酬を支払う契約を結び、基礎控除額(1日5,000円)を15日分差し引いて計算した額をもとに源泉徴収して納付していたところ、税務署が「控除額は5,000円にホステスの実際の出勤日数を乗じて計算した金額にとどまる」として、不足分の源泉所得税の納付を求めたため、その処分の取消しを求めていたものだ。
●  「支払金額の計算期間の日数」の解釈を巡る判断
  所得税法では、ホステスやコンパニオンなどの業務に関する報酬・料金に対し源泉徴収する所得税の額について、「(報酬・料金の額−控除金額)×10%」で計算した金額とし、同施行令において、控除金額については、「同一人に対し1回に支払われる金額について、5,000円にその支払金額の計算期間の日数を乗じた金額」と定めている。原告の経営者側は、いわばこの条文に則って控除額を計算したといえる。
  ところが、原審は、「ホステス等の個人事業者の場合、その所得の金額は、その年中の事業所得に係る総所得金額から必要経費を控除した金額であるから、源泉徴収においても、『同一人に対して1回に支払われる金額』から可能な限り実際の必要経費に近似する額を控除することが、ホステス報酬に係る源泉徴収制度における基礎控除方式の趣旨に合致する」と指摘。
  「報酬の算定要素となるのが実際の出勤日における勤務時間である場合には、その出勤日についてのみ稼動に伴う必要経費が発生すると捉えることが自然である」として、「施行令にいう『支払金額の計算期間の日数』とは、各集計期間の日数ではなく、実際の出勤日数である」と解釈し、国税側の主張を認めた。
●  基礎控除方式の採用は「還付の手間を省くため」
  これに対して、最高裁小法廷は、「ホステス報酬で基礎控除方式が採られた趣旨は、できる限り源泉所得税に係る還付の手間を省くことにあったことが、立法担当者の説明等からうかがえる」と指摘。「ホステス報酬の額が一定の期間ごとに計算されて支払われている場合においては、施行令にいう『支払金額の計算期間の日数』とは、ホステスの実際の稼動日数ではなく、その期間に含まれるすべての日数を指す」と判断し、国税の主張を退けている。
  確かに、控除額が少なければ、ホステスが還付する事態も大いに考えられ、それは、納税者・国税側双方の手間となる。国税側が控除額が多すぎるというのであれば、そもそも「まず、税法を変えるべき」との実務家の意見もある。
(浅野宗玄 税金ジャーナリスト、株式会社タックス・コム代表)
2010.03.23
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