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2009年度査察は約6億円減の290億円の脱税把握
●  処理件数210件のうち149件を告発
  いわゆるマルサと呼ばれる査察は、脱税でも特に大口・悪質なものが強制調査され検察当局に告発されて刑事罰の対象となる。国税庁が公表した今年3月までの1年間の「2009年度版査察白書」によると、査察で摘発した脱税総額は前年度を約6億円下回る290億円だった。検察庁に告発した件数は前年度より4件少ない149件だったが、告発分1件あたり平均の脱税額は同800万円増の1億7,100万円と、2年ぶりに増加している。
  2009年度1年間に全国の国税局が査察に着手した件数は213件(前年度211件)、継続事案を含む210件(同208件)を処理(検察庁への告発の可否を最終的に判断)し、うち71.0%(同73.6%)にあたる149件を検察庁に告発した。告発事件のうち、脱税額(加算税を含む)が3億円以上のものは前年度を3件上回る17件、脱税額が5億円以上のものは前年度を1件下回る6件だった。
●  告発の多かった業種は「不動産業」の15件
  近年、脱税額3億円以上の大型事案が減少傾向にあり、2009年度の脱税総額290億円は、ピークの1988年度(714億円)に比べ4割まで減少している。告発分を税目別にみると、「法人税」が前年度から13件減の84件ながら全体の57%を、脱税総額でも同18.4%減の約152億円で60%を占めた。所得税は4件減の36件、約54億円のほか、消費税は6件増の18件、約20億円、相続税は過去5年間で最多の6件、約19億円だった。
  告発件数の多かった業種・取引(5件以上)は、「不動産業」が15件、「鉱物・金属材料卸」が11件、「建設業」が9件、「商品・株式取引」が8件など。
  脱税の手口としては、「不動産業」では、取引で得た利益を全く申告しないもの、「鉱物・金属材料卸」「商品・株式取引」および「不動産譲渡」では売上除外、「建設業」では架空の原価計上、「キャバレー・飲食店」では従業員等から徴収した源泉所得税を不納付、「人材派遣業」では、消費税の申告において、課税仕入れに該当しない人件費を課税仕入れとなる外注費に科目仮装、などが目立った。
●  査察での告発事案は100%有罪、7人に実刑判決
  ところで査察調査は、単に免れた税金や重加算税などを納めさせるだけでなく、検察への告発を通じて刑罰を科すことを目的としている。
  刑罰とは懲役や罰金だが、実をいえば、以前は実刑判決はなかった。つまり、執行猶予と罰金刑で済んでいたのだが、懲りない面々に対し“一罰百戒”効果を高めるため、1980年に初めて実刑判決が出されて以降は、毎年実刑判決が言い渡されている。2009年度版査察白書によると、2009年度中に一審判決が言い渡された141件のすべてに有罪判決が出され、うち7人に対し執行猶予がつかない実刑判決が言い渡された。
  平均の懲役月数は14.6カ月、罰金額は約1,700万円だ。査察の対象選定は、脱税額1億円が目安といわれ、また、脱税額や悪質度合いの大きさが実刑判決につながる。査察で告発されると、社会的信用を失うだけでなく、巨額な罰金刑や実刑判決もありうるわけだ。ちなみに、刑罰は5年以下の懲役または500万円(脱税額が500万円を超える場合は脱税相当額)以下の罰金となるか、あるいは懲役と罰金の併科となる。
  上記のように、すでに着手した査察事案について、同年度中に検察庁への告発の可否を最終的に判断(処理)した件数は210件で、このうち検察庁に告発した件数は71.0%(告発率)にあたる149件だった。最近5年間の告発率はすべて70%台で推移している。つまり、査察の対象になると、7割以上が実刑判決を含む刑事罰の対象となるということだ。くれぐれも甘い考えを起こさないでいただきたい。
資料:「平成21年度 査察の概要」(国税庁)
http://www.nta.go.jp/kohyo/press/press/2010/sasatsu/index.htm

(浅野宗玄 税金ジャーナリスト、株式会社タックス・コム代表)
2010.06.28
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