>  今週のトピックス >  No.2074
年金保険の二重課税訴訟で国側敗訴判決〜最高裁
●  これまで年金は「雑所得」として課税
  生命保険加入者が死亡した後に遺族が年金形式で受け取る保険金について、相続税の課税対象とした上、雑所得として所得税をも課すのは二重課税であるとして、長崎市の無職女性が国に課税の取消しを求めていた上告審が7月6日、最高裁第3小法廷で開かれ、那須弘平裁判長は「所得税の課税対象とはならない」として、課税を認めた国側勝訴の2審判決を破棄、女性側の逆転勝訴が確定した。裁判長および3裁判官全員一致の判決だった。
  今回の訴訟の争点は、「相続、遺贈または個人からの贈与により取得しまたは取得したものとみなされる財産について、相続税または贈与税と所得税との二重課税を排除する」として所得税を課さないと定めた所得税法9条1項15号の解釈。これまで、実務では、年金受給権も含めて相続財産とする一方、実際に受け取った年金は「雑所得」とみなして所得税を課税する運用がなされてきた。
●  返還請求や課税実務に大きな影響
  原告の女性は夫の死亡により一時金4,000万円と年230万円の年金を10年間受け取る権利を取得した。女性は、「この年金部分(年金受給権)は、相続税の課税対象となる経済的価値と同一のものということができ、所得税法9条1項15号により課税対象にならない」と国に所得税の課税処分取消しを求め提訴。国側は、相続税の対象は年金受給権のみで、毎年現金で受け取る年金とは異なるとして、二重課税にはあたらないとしていた。
  1審の長崎地裁は二重課税を認めて、所得税の課税処分取消しを命令。しかし、2審の福岡高裁は国側の主張を認め、主婦側が逆転敗訴していた。
  問題の保険は、加入者の死亡後に生命保険金の一部を年金形式で遺族が受け取れる年金払特約付きの生命保険。加入者の死亡時点で、一時金か年金形式かの支払を選んだり、併用したりできる。同種保険の契約は多数あるとみられ、返還請求や課税実務などに影響を与えそうだ。
●  還付が認められない5年分以前も救済する方針
  判決を受けて野田財務相は、「今般の最高裁判決については謙虚に受け止めて、そして適正に対処していきたい」旨のコメントを発表し、「これまでのいわゆる解釈を変更することになるが、そういう変更をして、そして過去5年分の所得税については更正の請求を出していただいた上で、それを経て減額の更正をするという形の対処をしていきたい」との方針を表明した。
  しかし問題は、現行法では還付が認められない5年を超える部分である。5年を超える部分の納税の救済については、国税通則法の時効との関係で、制度上の対応が必要になる。
  このため、「法的な措置が必要なのか、政令改正で済むのか、子細に検討して対応する」とともに、生保年金以外に相続をした金融商品で、今回の判決を踏まえて対応あるいは改善が必要なものもあるかもしれないとして、「具体的には政府税調の中で議論をして来年度の税制改正で対応するということも視野に入れていきたい」とした。
  国税庁では、上記方針を踏まえ、これまでの法令解釈を変更し、所得税額が納めすぎとなっている納税者の過去5年分の所得税につき、更正の請求を経て、減額更正を行い、返還することとなる。
  現在、判決に基づき、課税の対象とならない部分の算定方法などの検討を進めており、具体的な対応方法については、対応方法が確定次第、同庁ホームページや税務署の窓口などにおいて、適切に広報・周知を図っていく方針だ。
最高裁判決の主文は↓
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100706114147.pdf

(浅野宗玄 税金ジャーナリスト、株式会社タックス・コム代表)
2010.07.20
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