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法人実効税率、企業の7割超が「引き下げるべき」
●  中小企業のほうが高い実効税率引下げを求める割合
  現在、世界各国において法人税率の引下げ競争が行われているなか、政府は新成長戦略で法人実効税率(約40%)を主要国並みに引き下げていくことを掲げており、日本の企業の競争力強化や雇用の確保などにおいて議論が活発化している。
  帝国データバンクが7月下旬に実施した「法人課税の実効税率等に対する企業の意識調査」結果(有効回答数1万1,446社)によると、「引き下げるべき」とする企業が71.4%と7割を超えた。他方、「引き下げるべきでない」とする企業は10.4%と約1割となった。
  引き下げるべきと回答した企業を規模別にみると、「大企業」が67.1%だったのに対し、「中小企業」は72.7%と大企業を5.6ポイント上回り、中小企業で実効税率引下げを求める割合が高い。業界別では、「不動産」(74.9%)がもっとも高く、次いで「運輸・倉庫」(74.1%)、「卸売」(72.5%)、「サービス」(72.5%)と内需型産業が続いた。
●  実効税率引下げによる期待は「企業利益の押上げ」
  法人課税の実効税率の引下げで期待すること(複数回答)については、「企業利益の押上げ」とする企業が64.6%で最多となった。次いで「企業の国際競争力の向上」(43.9%)、「国内景気の上昇」(41.9%)、「国内雇用の確保」(37.2%)、「企業の海外移転の抑制」(31.3%)が3割超で続いた。
  多くの企業が企業利益の押上げを期待しているものの、法人税の申告事績で黒字申告割合が3割を下回る(国税庁)なかでは、実効税率の引下げを有効なものにするためにも、一刻も早い黒字企業の拡大が必須となる。
  法人課税の実効税率の引下げ分を充当する、現段階でもっとも可能性が高い項目は、25.6%と4社に1社が「内部留保」と回答、次いで「借入金の返済」(16.8%)となった。さらに、人的投資に対しては、「社員に還元(給与や賞与の増額など)」(15.5%)や「人員の増強」(8.4%)を合わせて23.9%と2割超になった。一方、「設備投資の増強」(12.7%)と「研究開発投資の拡大」(5.5%)を合わせると18.2%が資本投資に充当するとした。人的投資と資本投資を合計すると42.1%が積極的な投資に充当すると考えている。
●  「法人税」の優先的な見直しを求める企業は6割近く
  法人課税のうちもっとも優先的に見直して欲しい税項目については、58.8%と6割近い企業が「法人税」と回答。また、「法人住民税」(2.1%)と「法人事業税」(9.7%)を含めて、実効税率に該当する法人3税が70.5%となり、7割超の企業が法人課税のなかでも法人実効税率の税項目を見直して欲しいと考えている様子が明らかになった。
  法人課税の高負担が継続する場合に企業の競争力に与える影響については、「深刻な影響を与える」が26.1%、「ある程度はマイナスの影響を与える」が46.3%となり、7割を超える企業で高い法人課税が企業の競争力に影響を与えることを懸念している。とりわけ、「競争力に深刻な影響力を与える」では、「小規模企業」が28.8%と3割近くに達しており、「大企業」(21.3%)を7.5ポイント上回った。
  一方、社会保険料が増大する場合では、「深刻な影響を与える」は28.6%、「ある程度はマイナスの影響を与える」が44.7%と、計73.3%が社会保険料の増大が企業の競争力に影響を与えると考えている。
  総じて、企業の競争力に与える影響として、法人課税と社会保険料とで大きな違いを見出すことはできない。したがって、企業は競争力への影響について、高い法人課税の継続と社会保険料負担の増大とを区別しないで捉えている様子がうかがえる。
同意識調査結果の詳細は↓
http://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/keiki_w1007.pdf

(浅野宗玄 税金ジャーナリスト、株式会社タックス・コム代表)
2010.08.16
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