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生保二重課税、過去10年分を還付する方針
●  2005年分から2009年分は10月下旬に還付手続き開始
  今年7月、遺族が年金として受給する生命保険のうち、相続税の課税対象となった部分については、所得税の課税対象とならないとする、いわゆる生命保険の二重課税問題に関する最高裁の判決があった。財務省と国税庁は、この二重課税を巡って、個人が納めすぎた所得税の還付を今月下旬から始めるとともに、現行法では時効となっている5年を超える部分を含め「過去10年分」を還付する方針を明らかにした。
  還付の対象となる保険は、(1)年金形式で受給している死亡保険金、(2)学資保険の契約者が亡くなったことに伴い受給する養育年金、(3)個人年金保険契約に基づく年金で、生命保険会社や旧簡易保険、損害保険会社、JA共済、全労災などが取り扱っている。
  これらの「保険年金」について、今月下旬に所得税法施行令を改正して取扱いを変更する。2005年分から2009年分については、取扱い変更後、所得税の還付の手続きが可能となる。
●  2000年分から2004年分は法改正後来年春からの還付
  一方、現行法では時効となる5年を超える2004年分以前の「保険年金」に係る所得税の還付については、税務署における確定申告書等の保存期間や民法の債権の消滅時効の期間などを踏まえて、2000年分以降の「保険年金」に係る所得税についても還付する方向で検討する。ただし、この特別な還付措置は法律改正が必要なので、実際の還付手続きは、法律案が国会で成立する来年春以降からとなろう。
  今回の取扱いの変更の対象となる「年金保険」の受給者のうち、その年分の所得税が源泉徴収されている人には、生命保険会社などから通知されることになっているが、年金所得が少額で所得税が源泉徴収されなかった人は、今月下旬の取扱い変更後、生命保険会社等各社に自ら照会しなければならない。また、確定申告している人は「更正の請求」を、確定申告をしていない人は「確定申告(還付申告)」する必要がある。
●  変更後は、「保険年金」を課税部分と非課税部分に振り分け計算
  今回の所得税の還付には、「年金保険」に係る所得税の取扱いを変更する必要がある。
  現行法では、各年の「年金保険」の所得金額(年金収入金額−支払保険料)の全額に所得税を課税している。変更後は、各年の「保険年金」を所得税の課税部分と非課税部分に振り分け、課税部分の所得金額(課税部分の年金収入金額−課税部分の支払保険料)にのみ所得税を課税する。「保険年金」支給の初年は全額非課税とし、2年目以降、非課税部分が同額ずつ階段状に徐々に減少していくという簡易な方法により計算する。
  この課税部分と非課税部分の計算方法は、定額払いの確定年金に限らず、終身年金や有期年金、逓増型や逓減型などの年金種類や支払方法、さらにはその支給期間にかかわらず用いることができる。また、還付額は、取扱い変更前の納付済みの所得税額から、各年の保険年金の課税部分に係る所得を納税者の他の所得と合算して算出した取扱い変更後の所得税額を差し引いて算出する。
  なお、各年の年金額が同額であっても、非課税対象額が異なることから、還付額も各年において異なる。また、課税部分に係る所得金額の計算では、支払保険料を控除するので、支払保険料の割合が高い年金については、その割合が低い年金に比べて、取扱い変更前においても課税対象所得金額は小さくなっている。したがって、個人年金等の支払保険料の割合が高い年金は、取扱い変更による非課税部分の所得金額は小さくなる。
参照資料は↓
http://www.nta.go.jp/sonota/sonota/osirase/data/h22/sozoku_zoyo/pdf/9382.pdf

(浅野宗玄 税金ジャーナリスト、株式会社タックス・コム代表)
2010.10.12
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