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運用環境悪化で正念場の企業年金
●  財政悪化で、企業や従業員は負担増
  2010年12月15日付けの日本経済新聞によると、財政悪化により48の厚生年金基金が「財政健全化を促す基金」に指定された。指定された基金では、今後掛金の引き上げや給付削減などが行われることになるため、加入する企業や従業員の負担増は避けられないだろう。
  財政悪化の要因の一つは、加入者と受給者のアンバランス。高齢化で受給者が増えている一方、支え手である現役世代の加入者が減っている。受け手と支え手がほぼ同数という基金も少なくない。企業が正社員を採用しなくなっていることも、アンバランスに追い打ちをかけている。
●  運用低迷で資産激減
  もう一つの要因は、運用環境の悪化である。下記の表は、格付け投資情報センター(R&I)が調査した企業年金の運用利回りであるが、2000年度から3年間マイナスが続いたものの、2003年度からは大きく改善している。多くの関係者はこの利回りを見て、危機感を感じなくなってしまったようだ。
  しかし、その横の数字を見ていただきたい。Aは2000年度の期初に100だった年金資産を実際の運用利回りで運用した場合の推移、Bは予定していた利率(ここでは仮に3%とする)で運用していた場合の年金資産の推移を表している。わかりやすくするため、年金資産の出入り(掛金の追加や、年金の支払い)はないものとする。
  当初3年間がマイナス運用だったことから、2002度末には資産は76.1まで減ったものの翌年からプラス運用が続いたため、2005年には当初の資産額(100)を超えて「110.7」になった。しかし、3%で運用することを想定しているので、本来あるべき資産は「119.4」であり、「8.7」足りない。
  その後、2007年は▲9.7%、2008年はリーマンショックにより▲17.0%と運用利回りが低迷したため、2008年度末には資産は「86.7」まで減ってしまっていることになる。本来あるべき資産「130.5」と比較して、「43.8」も不足しているのだ。
  
年度 実際の
運用利回り
A.実際の年金資産の
推移(※1)
B.予定していた
年金資産の推移(※2)
2000 ▲ 9.8%    90.2 103.0
2001 ▲ 4.0%  86.6 106.1
2002 ▲12.1%  76.1 109.3
2003 16.2%  88.4 112.6
2004 5.0%  92.9 115.9
2005 19.2%  110.7 119.4
2006 4.6%  115.8 123.0
2007 ▲ 9.7%  104.6 126.7
2008 ▲17.0%  86.8 130.5
   ※1:2000年度期初を100とし、年金資産の出入りはないものとする。
※2:運用利率3%で試算。
  前述の事例は一つの試算であるが、多くの企業年金が運用に苦しんでいる様子が想像できるのではないだろうか。
  「受け手と支え手とのアンバランス」「運用環境の悪化」という二つの要因で財政が悪化している(確定給付タイプの)企業年金を維持することが、企業経営にマイナスになりつつあるのは間違いないだろう。
(CFP® 山田 静江)
2010.12.27
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