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2011年度税制改正における納税環境の整備
  税制改正大綱によると、2011年度税制改正は、法人実効税率の5%引下げや個人所得課税や相続税などの資産課税が高所得層を中心に負担増となる増税色の濃いものとなったが、これらの改正に隠れた感があるものの、注目されるのは納税環境の整備である。
  具体的には、
(1) 納税者権利憲章の策定   (2) 税務調査手続
(3) 更正の請求   (4) 理由附記
(5) 地方税に関する税務調査手続等の見直し    (6) 租税罰則の見直し
などが盛り込まれているが、ここでは、(1) 納税者権利憲章の策定、(3)更正の請求について取り上げたい。
●  納税者権利憲章は2012年中に準備、2013年1月1日公表
  「納税者権利憲章」の制定は、2012年中に準備を進めた上、2013年1月1日に公表されることとなった。国税の税務執行については、行政手続法の適用が除外され、国税通則法によって納税の義務という側面からのみ規定されてきたが、国税通則法を改正し、税務行政において納税者の権利利益の保護を図る趣旨を明確化する。
  具体的には、
(1)   税務調査における事前通知(通知対象者、開始日時・場所・目的・対象税目・課税期間等の通知内容、通知方法などを規定)
(2)   税務職員による質問検査権(所得税法や法人税法などの各税法の関連規定を集約)
(3)   税務調査終了後における調査内容の説明(更正・決定等すべきと認められる場合について、調査結果(非違の内容、金額、理由)等の説明)
などの各種税務手続の明確化について国税通則法に規定を集約する。
  また、「税務調査において申告内容に問題がある場合の修正申告等の勧奨」「税務調査における終了通知」「税務調査において納税者から提出された物件の預かり・返還等に関する手続」「更正の請求期間の延長」「更正の請求における『事実を証明する書類』の添付の義務化」「内容虚偽の更正の請求書の提出に対する処罰規定」「処分の理由附記」などの税務手続きも含め、複雑な税務手続を平易に表現するとしている。
  さらに「憲章」に記載すべき項目として、
(1)   納税者の自発的な申告・納税をサポートするため、納税者に提供される各種サービス
(2)   税務手続の全体像、個々の税務手続に係る納税者の権利利益や納税者・国税庁に求められる役割・行動
(3)   納税者が国税庁の処分に不服がある場合の救済手続、税務行政全般に関する苦情等への対応
(4)   国税庁の使命と税務職員の行動規範
を挙げている。「憲章」は、国税庁長官が作成し、公表する。
●  更正の請求期間を5年に延長、範囲も拡大
  更正の請求については、請求の期間を現行の1年から5年に延長し、更正の請求を認める範囲も拡大する。この更正の請求ができる期間は、現行は原則法定の申告期限から1年以内とされる一方で、税務署が増額更正できる期間は3年とされており、嘆願という不透明な実務を解消させ、納税者の救済と課税のバランスを図る観点から、更正の請求期間を5年に延長し、併せて、税務署が増額更正できる期間も3年から5年に延長する。
  これにより、基本的には、納税者による修正申告・更正の請求、税務署による増額更正・減額更正の期間制限がすべて同じになる。法人税については、納税者による修正申告期間は5年、更正の請求期間は1年、税務署による増額更正期間・減額更正期間はともに5年とされているが、これに係る更正の請求期間を5年に延長する。また、贈与税等では、修正申告6年、増額更正・減額更正6年とされていることから、6年に延長する。
  他方、更正の請求によっては事後的に当初申告にさかのぼってその措置を適用することが認められていない「当初申告要件」がある措置を見直し、更正の請求範囲を拡大する。現行、当初申告要件がある措置について、(1)インセンティブ措置(設備投資に係る減価償却など)、(2)利用するかしないかで、有利にも不利にもなる操作可能な措置(各種引当金など)のいずれにも該当しない措置については、「当初申告要件」を廃止する。
(浅野宗玄 税金ジャーナリスト、株式会社タックス・コム代表)
2011.01.24
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