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史上最高値を更新した円相場の行方は? 〜円キャリー取引の復活に注目
●  大震災でも買われた円
  3月中旬に史上最高値の1ドル=76円を記録した円相場が難しい局面に差し掛かっている。4月中旬の時点では、80円台前半で推移しているが、このまま90円に向けて下落していくのか、それともまた70円に向けて再び上昇するのか、市場関係者のなかでも意見が割れている。3月の「超円高」を振り返りながら、筆者の予想を示したい。
  そもそもなぜ、大地震が起きた日本の通貨「円」が地震後の3月中旬に買われたのだろうか。今回のような大災害に見舞われると、その国の通貨が売られることが多い。例えば2月のニュージーランド地震ではニュージーランドドルが地震直後に大きく売られた。昨年末から今年1月にかけて大洪水が発生したオーストラリアの豪ドルも、一時弱含んだ。
●  円買いが円買いを呼ぶ
  そうした「相場の常識」を無視して円が買われた理由はいくつかある。まず、1995年1月に発生した阪神大震災のときの連想だ。当時も地震発生以降円が買われ、4月に史上初めて1ドル=80円を突破した。
  なぜ阪神大震災のときも円高になったのか。それは日本が純債権国であることと密接なつながりがある。日本の金融機関や生命保険会社などの機関投資家は巨額の資金を海外で運用している。国内で大地震が発生した場合、保険金の支払いなどに備えて一時的に資金を日本に戻す「リパトリエーション」が起きやすくなる(実際は起きていないという見方もある)。こんな観測もあって円が一気に買われたわけだ。
  急に円高になると、困るのは円安になると考えて「円売り・外貨買い」取引をしていた投資家だ。特に日本の個人投資家は外国為替証拠金取引(FX)を通じてこうした取引を盛んに行っており、強制的に反対売買(円買い・外貨売り)させられた投資家も多かった。こうして円買いが円買いを呼ぶ展開となって円高が急伸した。
●  協調介入で円安基調に転じたが…
  相場の急変を重くみた国際社会は、被災した日本を支援する意味も込めて、円売りの協調介入に踏み切った。「投機的な動きには断固たる措置をとる」としており、今後も投機的な円買い取引は仕掛けにくい状況となっている。
  主要先進国の協調介入の成果もあって、足元では急激な円高が起きにくくなっている。こうした環境が続き、相場が安定してくれば、投資家の投資意欲は改善するだろう。大震災の傷が癒え、再びリスクがとれるようになると、低金利の円を売って、豪ドルやニュージーランドドルといった高金利通貨を買う「円キャリー取引」が盛んになる可能性もある。マスコミなどで円キャリー取引という言葉が頻繁に聞かれるようになれば、徐々に円安が進行するだろう。その場合、円は1ドル=90円に向けて下落していくことなる。

(この原稿は4月20日に執筆したものです)
2011.04.25
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