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「甲状腺機能低下症」告知における留意点
  前回(2227)の甲状腺機能亢進症に続き、今回は甲状腺機能「低下」症についてお話しします。
  甲状腺は首の前面にある器官で「人体のエネルギー代謝や循環内分泌機能を調節するホルモンを分泌する」というお話しをしましたが、「甲状腺機能低下症」では何らかの原因で甲状腺ホルモン分泌が低下するため、全身でエネルギー利用が低下し、神経系、心臓、代謝など各器官の働きが低下してしまいます。
  最も多いのが「橋本病」で、甲状腺を破壊する抗甲状腺抗体が産生される自己免疫疾患で、慢性甲状腺炎ともいわれ、中年女性に多く発症します。
●  分類(主なもの)
  一過性:急性甲状腺炎(細菌による炎症で化膿性甲状腺炎ともいう)や、亜急性甲状腺炎(ウイルスによる炎症)など。
  薬剤性:薬剤が視床下部や下垂体、あるいは直接甲状腺に作用してホルモンの合成・分泌を抑え、機能低下症になります。
  医原性:甲状腺機能亢進症の治療後や甲状腺がんの外科的・放射線治療後に生じるものや、躁鬱(そううつ)病の治療薬のリチウムによるものなどがあります。
  中枢性:下垂体腫瘍が多く、その他下垂体の虚血性壊死、炎症、視床下部の病変などもあります。
  ヨード不足/ヨード過剰:まれですが、甲状腺ホルモンの原料であるヨードの慢性的な不足で起こります。逆に、海藻等を多く摂取しヨード過剰となっても甲状腺の働きを弱めます。
●  自覚症状
  全身がエネルギーを利用できないので、非常に多彩な症状があります。
  全身症状:無気力・易疲労感・脱力感・体重増加・食欲低下・便秘・動脈硬化
  精神症状:記憶力低下・集中力低下・緩慢な動作・認知症
  皮膚症状:皮膚乾燥・発汗減少・黄色皮膚
  循環器症状:心電図異常(徐脈・低電位)・浮腫・息切れ・心肥大・粘液水腫
  婦人科症状:生理不順・不妊・易流産
●  治療
  一時的なもの以外は、薬物療法として、チラージンなどの甲状腺ホルモンを正常値になるまで徐々に増量し、その後は一生服用することが多いです。
●  予後
  前述のように症状が非常に多彩なため診断が遅れ、意識消失、昏睡、心不全等致死的な合併症を起こすこともありますが、いったん正確な診断がされれば、甲状腺ホルモンを服用し続けることで予後は良好な疾患です。
●  ご契約をいただく際には
  一過性のものを除いて、現在治療中と告知されるお客さまが多いのではないかと思います。現在治療中の場合、治療開始からの経過期間により死亡保険は保険料割増等の条件付きで、医療保険は部位不担保での加入となることが多いでしょう。
  既往症については一般的には少ないですが、完治後の経過期間により一過性だった場合には死亡保険は標準体、医療保険は標準体〜部位不担保での加入が可能でしょう。
  お客さまが甲状腺摘出手術を受けている場合で、悪性疾患が疑われる場合には病理診断書の提出を求められることがあります。より詳細に告知をいただくことをおすすめいたします。
(上田香十里 株式会社査定コンサルティング代表)
2011.05.23
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