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平成22年度査察調査 脱税の手段・方法は様々
●  多く見受けられた架空経費の計上
  平成22年度査察調査によると、同年度に検察庁に告発した件数は156件で、業種別にみると、「不動産業」(13件)、「建設業」(11件)、「運送業」(11件)などの告発件数が多かったが、これらの業種・取引における脱税の手段・方法としては、架空経費を計上するものが多く見受けられたという。
  架空の経費を計上していた事例をみると、不動産賃貸業を営むA社は、不正加担法人と通謀し、同法人に対して架空の修繕費を計上していた。架空の修繕費は、不正加担法人の預金に送金された後現金でバックさせ、代表者個人の借入金返済に充てられていた。
  また、解体工事業のB社は、実在しない法人に対して架空の外注費を計上。架空の外注費は、会社の預金から現金で出金され、そのまま隠されていた。
●  消費税では人件費を外注費に科目仮装
  その他の脱税の手段・方法では、消費税の申告において、課税仕入れに該当しない人件費を課税仕入れとなる外注費に科目仮装するものや、国際取引を利用した事案として、タックスヘイブンに関係法人を設立して、架空の外注費を計上していたもの、海外で受領した仲介手数料収入を申告から除外するとともに、その収入を国内に持ち込むことなく、海外に開設した預金で留保していたものなどがあった。
  消費税を脱税していた事例では、人材派遣業のB社が、課税仕入れの対象とならない自社に所属する派遣社員の人件費を、実態のない関係法人の外注費(課税仕入れの対象となる)に科目を仮装する方法により、架空の仕入税額控除を計上し、多額の消費税を免れていたものがある。
  B社の消費税については、資本金1000万円未満の事業実態のない関係法人を仮装外注先として設立し、外注費に係る仕入税額を控除していた。また、関係法人の消費税については、資本金1000万円未満の新設法人は設立後2年間は消費税の免税事業者となることを悪用して、2年間に限り外注先になることによって、消費税の納税を回避していたという悪質な事例だった。
●  査察での告発事案は100%有罪、9人に実刑判決
  ところで、査察(いわゆるマルサ)は、大口・悪質な脱税をしている疑いのある者に対して、犯罪捜査に準じた方法で行われる特別な調査である。調査にあたる国税査察官には、裁判官の発する許可状を受けて事務所などの捜査をしたり、帳簿などの証拠物件を差し押さえたりする強制捜査を行う権限が与えられる。この査察調査は、単に免れた税金や重加算税などを納めさせるだけでなく、検察への告発を通じて刑罰を科すことを目的としている。
  刑罰とは懲役や罰金だが、実をいうと以前は実刑判決はなかった。つまり、執行猶予と罰金刑で済んでいたのだが、懲りない面々に対し“一罰百戒”効果を高めるため、1980年に初めて実刑判決が出されて以降は、毎年実刑判決が言い渡されている。
  平成22年度査察調査によると、平成22年度中に一審判決が言い渡された152件のすべてに有罪判決が出され、うち6人に対し執行猶予がつかない実刑判決が言い渡された。
  平均の懲役月数は13.8ヵ月、罰金額は約2000万円だ。査察の対象選定は、脱税額1億円が目安といわれ、また、脱税額や悪質度合いの大きさが実刑判決につながる。査察で告発されると、社会的信用を失うだけでなく、巨額な罰金刑や実刑判決もありうる。ちなみに、2010年度税制改正で、刑罰は10年(改正前5年)以下の懲役に、罰金は1000万円(同500万円)以下に引き上げられ、昨年6月1日以降の違反行為について適用されている。
  平成22年度査察調査によると、すでに着手した査察事案について、同年度中に検察庁への告発の可否を最終的に判断(処理)した件数は216件で、このうち検察庁に告発した件数は72.2%(告発率)にあたる156件だった。最近5年間の告発率はすべて70%台で推移している。つまり、査察の対象になると、7割以上が実刑判決を含む刑事罰の対象となるということだ。くれぐれも甘い考えを起こさないでいただきたい。
(浅野宗玄 税金ジャーナリスト、株式会社タックス・コム代表)

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2011.06.27
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