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格下げが示した米国の信用度
●  「爆心地」なのに買われる
  8月前半は世界の株式相場が急落するなど大荒れの展開となった。
  きっかけとなったのが米債務問題と米国債の格下げだったが、「爆心地」とも言える米国債はなぜか買われ、米金利は低下した。格下げが皮肉にも、米国の経済的な信用力の高さを示した結果となった。
  5日に米国債の長期格付けを格下げしたのは、主要格付け会社の一つ、米スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)。最上位の「トリプルA」から、「ダブルAプラス」に1段階引き下げた。同社が米国債を格下げするのは1941年の現行制度開始以来、初めてのことだ。ちなみに他の格付け会社、ムーディーズ・インベスターズ・サービスとフィッチ・レーティングスは最上位格付けを維持している。
●  一般的にはトリプル安
  国の信用度を示す国債が格下げされると、一般的には株も債券も通貨も売られる「トリプル安」が起こりやすい。今回は米国など世界的に株が売られ、ドルも下落したが、米国債は買われた。現在、米長期金利の指標となる10年物国債利回りは2.3%前後と歴史的な水準に低下している。
  米国債は、投資の世界では「無リスク資産」と位置づけられている。
  国債はそもそも元本が保証される上、米国のような超大国は最上位格付けを保有し、デフォルトする可能性は低い。米国債市場は規模が極めて大きく、取引も活発なため、売りたいときにすぐ売れ流動性は高い。市場では米国債を担保にして金融機関が資金を調達したり、投資家がリスク資産を取引したりすることも可能だ。
  一連の債務・格下げ問題で、米国債への不信感は高まったものの、こうした米国債の「機能面」は一朝一夕には変わらない。むしろ、米格下げや欧州の債務危機などで市場のリスクが高まった局面では、米国債という無リスク資産に資金が逃げ込んだ。
●  日本国債の格下げに注意
  実は日本国債も格下げされる可能性がある。ムーディーズが5月に「Aa2」(ダブルA格に相当)から引き下げ方向で見直すと発表しているのだ。
  同社は東日本大震災で日本経済が悪化したのに加え、国内政治の混乱で財政健全化が進みにくいと判断している。早ければ8月中にも格下げに踏み切るとみられる。
  日本国債も無リスク資産に位置づけられ、市場規模が大きく、国内の金融機関などが大量に保有している。売りが殺到して、すぐに価格が急落(金利が急上昇)するとは考えにくいが、唯一無二の米国債に対して、日本国債はそこまでの評価されているわけではない。日本政府が巨額の財政赤字を抱えていることもあり、格下げによって、トリプル安となるリスクはくすぶっている。
(内容は8月16日執筆時点のものです)
2011.08.22
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