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最高裁、土地等譲渡損失の損益通算規制は合憲と判示
●  4月施行の改正法の1月からの遡及適用で争い
  土地等の譲渡損失を損益通算できないとする2004年度税制改正は同年4月1日から施行され、損益通算の廃止は同年1月1日以後の譲渡からと遡及適用された。これを不服として複数の訴訟が起こされていたが、最高裁(金築誠志裁判長)は9月22日、土地等に係る損益通算規制が施行日前の土地取引にも遡及適用できるか否かが争われた事件の上告審で、原審通り、納税者の主張を退け、遡及適用は憲法84条(租税法律主義)に違反せず合憲との判断を示した。
  この事件は、上告人が、改正法が施行された2004年4月1日前の同年1月30日に土地の譲渡を行い同年分の長期譲渡所得の金額の計算上損失が生じることから、その譲渡損失を他の所得と損益通算すると還付税金が生じるため更正の請求をしたことが発端となった。ところが、税務署は損益通算を認めず、更正の請求をすべき理由がない旨の通知処分をしてきたため、税務署の通知処分は違法であるとして、その取消しを求めていたもの。
  つまり、上告人は、改正法の施行日より前にされた土地等の譲渡についても損益通算を認めないこととしたのは納税者に不利益な遡及立法であって、憲法84条に違反すると主張したのだ。
  この訴えに対して、原審の東京高裁(2008年12月4日)は、改正法の遡及適用は憲法84条に違反せず、税務署の通知処分も適法として請求を斥けたため、納税者が上告していた事案だ。
●  遡及適用は駆け込み売却防止など公益上の要請
  最高裁は、「暦年当初からの適用を定めた本件改正附則が憲法84条の趣旨に反するか否かについては…諸般の事情を総合的に勘案した上で…適用による課税関係における法的安定性への影響が、納税者の租税法規上の地位に対する合理的な制約として容認されるかどうかという観点から判断するのが相当」とした上で、諸般の事情については駆け込み売却を防止する目的があり「具体的な公益上の要請に基づくものであった」と指摘した。
  納税者の地位の合理的な制約については、その地位も「政策的、技術的な判断を踏まえた裁量的判断に基づき設けられた性格を有する」から「合理的な制約として容認されるべきもの」と判断。また、「遡及適用期間も3ヵ月間に限られており、納税者においては、これによって損益通算による租税負担の軽減に係る期待に沿った結果を得られなくなるものの、それ以上に納税義務を加重されるなどの不利益を受けるものではない」とした。
  これらのことから、改正法が損益通算規制に係る改正後措置法の規定を2004年1月1日以後にされた長期譲渡所得に適用するとしたことは、納税者の租税法規定上の地位に対する合理的な制約として容認されるべきものとして、暦年当初への遡及適用が憲法84条に違反するとはいえず、合憲との判断を示している。
  なお、東京地裁から始まった類似の事案についても、憲法違反を否定、上告を棄却する旨の判決が1週間後の9月30日に最高裁(古田佑紀裁判長)において言い渡されている。これで一連の事件に決着が図られたことになる。
(浅野宗玄、税金ジャーナリスト、株式会社タックス・コム代表)

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2011.10.11
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