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14%の実地調査で「申告漏れ所得金額の6割強」を把握
● 2010年度は9,601億円の申告漏れを把握
  近年の所得税調査は、高額・悪質と見込まれるものを優先して深度ある調査(特別調査・一般調査)を重点的・集中的に行う一方で、実地調査までには至らないものは電話や来署依頼による“簡易な接触”で済ます方針にある。2010事務年度の調査でも、調査件数では約14%の実地調査で、申告漏れ所得金額全体の6割強(62.6%)を把握しており、近年は実地調査を中心とした効率的な所得税調査が続いている。
  国税庁がまとめた2010事務年度の個人事業者に対する所得税調査状況によると、今年6月までの1年間の所得税調査は、東日本大震災の被災者に対する税務相談への対応等に事務量を割いたことから前年度に比べ0.6%減の約69万4,000件にとどまったが、うち65.7%に当たる約45万6,000件から同2.9%減の9,601億円の申告漏れ所得を見つけた。追徴税額は同6.8%減の1,239億円。1件あたり平均138万円の申告漏れに対し18万円を追徴した。
● 8%の特別調査・一般調査で申告漏れ所得金額の5割強を把握
  実地調査における特別調査・一般調査(高額・悪質な不正計算が見込まれるものを対象に行う深度ある調査)は、前年度比9.5%減の約5万7,000件だったが、うち86.0%にあたる約4万9,000件から同8.3%減の総額5,036億円の申告漏れ所得を見つけ、同10.6%減の929億円を追徴。件数では全体の8.2%に過ぎないが、申告漏れ所得金額全体の5割強を占めた。調査1件あたりの申告漏れは879万円と、全体の平均138万円を大きく上回る。
  また、実地調査に含まれる着眼調査(資料情報や事業実態の解明を通じて行う短期間の調査)は、調査件数全体の5.3%の約3万7,000件行われ、うち73.0%の約2万7,000件から977億円の申告漏れを見つけ、66億円を追徴した。1件あたりの申告漏れは平均261万円だった。
● 実地調査1件あたりの申告漏れは平均635万円
  この結果、特別調査・一般調査と着眼調査を合わせた実地調査は、前年度比13.6%減の約9万5,000件の調査を行い、うち80%にあたる約7万6,000件から同6.6%減の6,013億円の申告漏れ所得を見つけ、同9.7%減の995億円を追徴した。実地調査1件あたりの申告漏れは平均635万円にのぼる。
  一方、簡易な接触は、約59万9,000件行われ、うち63.4%の約38万件から3,588億円の申告漏れを見つけ245億円を追徴。1件あたりの申告漏れは平均60万円だった。
  このように、実地調査では、全体の約14%の調査件数で申告漏れ所得全体の6割強を把握しており、高額・悪質な事案を優先して深度ある調査を的確に実施する一方、短期間で申告漏れ所得等の把握を行う効率的・効果的な所得税調査が実施されている。
  なお、業種別1件あたりの申告漏れ所得高額業種は、「風俗業」(2,076万円)がトップ、「廃棄物処理」(1,625万円)、「プログラマー」(1,492万円)までがワースト3。
参考資料:平成22事務年度における所得税及び消費税調査等の状況について(国税庁)
http://www.nta.go.jp/kohyo/press/press/2011/shotoku_shohi/00.pdf
  
浅野 宗玄(あさの・むねはる)
株式会社タックス・コム代表取締役
税金ジャーナリスト
1948年生まれ。税務・経営関連専門誌の編集を経て、2000年に株式会社タックス・コムを設立。同社代表、ジャーナリストとしても週刊誌等に執筆。著書に「住基ネットとプライバシー問題」(中央経済社)など。
http://www.taxcom.co.jp/
○タックス・コム企画・編集の新刊書籍「生命保険法人契約を考える」
http://www.taxcom.co.jp/seimeihoujin/index.html
  
2011.11.7
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