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為替介入が効かないワケ
● 介入額は「大河の一滴」
  日本政府は10月31日午前に外国為替市場で、円売り為替介入に踏み切った。円相場は早朝に一時1ドル=75円32銭の史上最高値を付けていたが、介入によって79円台まで急落。ところが、その後は再び円高基調に戻っている。政府は昨年9月15日に6年半ぶりの為替介入を実施して以来、東日本大震災直後の3月18日と欧州の債務危機が再燃した8月4日も合わせると4度に渡って介入してきたが、過度な円高傾向は修正できていない。なぜ介入は効かないのだろうか。
  今回の円売り介入は7兆〜8兆円規模で、8月4日の介入の約4兆5,000億円を上回り、過去最大規模になったとみられている。政府は31日以降も断続的に介入している可能性があり、介入総額はもっと膨らむかもしれない。
  皆さんは8兆円というと途方もない金額だと思うだろうが、外国為替市場という巨大マーケットの取引金額と比べると実は「大河の一滴」に過ぎない。国際決済銀行によると、世界の外為取引高は1日平均で約320兆円ある。スポット取引に占める円の割合は約2割。たった8兆円では短期間に少しだけレートを動かすことしかできない、というのが実情だ。
● 円高ではなく、ドル安・ユーロ安
  今回の円高が日本経済に起因するものではなく、米欧経済に起因していることも介入が効かない理由の1つだ。基軸通貨のドルは米国の景気低迷・雇用悪化とそれに伴う金融緩和で買いにくい状況が続いている。主要通貨のユーロは、欧州の債務危機が大国のイタリアやフランスまで飛び火しそうな情勢で、売りが優勢だ。
  ドルもユーロも不振ということになると、投資家は消去法で次に大きな市場である円に資金を置かざるを得ない。日本は確かに巨額の財政赤字を抱えるが、国債市場は安定しており、経常収支も黒字が続いている。格好の「資金の待機場所」として円市場が選ばれており、介入によって円への資金流入を長期的に食い止めることは難しい。
● 市場が見透かす限界
  こうした背景もあって、過去の為替介入は効果が持続しなかった。大震災後の3月介入はこれまでで唯一、米欧との協調介入になったが、これも円高を止めることはできず、8月と10月に単独介入に追い込まれた。
  大河に一滴を垂らす為替介入が効かないことは、日本の通貨当局も承知している。だからこそ、最大の効果があるタイミングを狙って実施するわけだが、1年余りの間に4回もトライし、サプライズな演出はしにくくなっている。市場が「どうせ介入は効かない」と思うことが、通貨当局にとって最も悩ましい事態だろう。
(内容は11月16日執筆時点のものです)
2011.11.21
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