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会計検査院、税金の徴収漏れ約2億6千万円を指摘
● 税金のムダ遣い約4,283億円を指摘
  会計検査院がこのほど公表した2010年度決算検査報告によると、各省庁や政府関係機関などの税金のムダ遣いや不正支出、経理処理の不適切などを指摘したのは568件、約4,283億8,758万円にのぼった。前年度に比べ、指摘件数は418件減り、指摘額(前年度1兆7,908億8,354万円)では約70%減となったが、前年度に次ぐ過去2番目の金額。前年度は、独立行政法人の利益剰余金や国の特別会計について1兆円を優に超える指摘を行っていた。
  財務省に対しては、税金の徴収額の過不足2億7,537万円(前年度5億1,588万円)が指摘された。72税務署において、納税者102人から税金を徴収するにあたり、徴収額不足が97事項、2億6,397万円、徴収額過大が5事項1,140万円だった。前年度は、113署において徴収不足が205事項、4億9,440万円、徴収過大が9事項、2,149万円だったので、徴収不足、徴収過大ともに約47%減と、ほぼ半減したことになる。
  徴収が過不足だった102事項を税目別にみると、「法人税」が72事項(うち徴収過大3事項)でもっとも多く、以下、「申告所得税」22事項(同2事項)、「相続・贈与税」3事項、「源泉所得税」3事項、「消費税」2事項となっている。これらの徴収不足額や徴収過大額があった102事項については、会計検査院の指摘後、すべて徴収決定または支払決定の処置がとられている。
● 社会保険診療報酬の特例について意見表示
  検査院の報告では、法令違反に当たる不当事項として、(1)査察事案の事務処理が適正に行われなかったため、重加算税等を賦課決定できなかったり、延滞税を過小に決定したりしていたもの1件、不当金額(収入)3,564万円、(2)還付金等に係る支払事務において、未納の国税に充てなければならない還付金等を還付していたもの1件、同886万円、(3)職員の不正行為1件、同703万円、などを指摘している。
  また、検査院は、社会保険診療報酬の所得計算の特例に係る租税特別措置について、青色申告決算書等において社会保険診療報酬に係る実際経費を計算していた医療事業者が、概算経費を必要経費として所得金額の計算を行い、特例の適用を受けていたことによる推計減税額(収入)が合計32億1,109万円あったことについて、財務省及び厚生労働省に対し意見を表示するとともに処置を要求している。
● 見直しが迫られる社会保険診療報酬の特例
  会計検査院が「社会保険診療報酬の所得計算の特例に係る租税特別措置」について意見表示したことに基づき、政府税制調査会でも検討課題の一つに取り上げられている。意見では、「厚生労働省が2005年度以降要望書等を財務省に提出しておらず、財務省でも特例の検証が行われていない」と、経済実態に即した見直しを求めている。
  同特例は、1954年に議員立法により創設、社会保険診療報酬に係る所得の必要経費を一律収入金額の72%相当額としたことに始まる。1979年に一律の控除率を5段階概算経費率に改め、1988年に現行の社会保険診療報酬5,000万円超を除外、2,500万円以下の部分72%、2,500万円超3,000万円以下の部分70%、3,000万円超4,000万円以下の部分62%、4,000万円超5,000万円以下の部分57%とされ、現在に至っている。
  同院の検査によると、自由診療収入を含めた医業収入5,000万円超の特例適用者が全体の約15%で、これらの者の自由診療収入平均は約1,450万円(医業収入の約25%)。この中には自由診療収入を含めた医業収入が1億円を超える適用者も存在する。1億円を超える特例適用者の医業収入のうち、自由診療収入の平均額は約9,000万円に及んでおり、特例の基準は、医業事業者の経営規模を測るための基準としては適切でないと指摘している。
  また、特例適用者のうち、実際経費の計算を行っている者が85.7%おり、これらの者はいずれも実際経費と概算経費を比較して概算経費が有利なため特例を適用していたことが分かった。この実態から、申告書等の作成事務上は、小規模医療機関の事務処理の負担を軽減するという特例の目的は達成されているとは認められない、とした。
  2012年度税制改正で同特例に「メス」が入るのか、注目されるところだ。
参考資料
*検査院の財務省に対する不当事項は↓
http://www.jbaudit.go.jp/report/new/summary22/futo06.html
*特例に対する検査院の意見は↓
http://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/zeicho/2011/__icsFiles/afieldfile/2011/11/08/23zen15kai12.pdf
  
浅野 宗玄(あさの・むねはる)
株式会社タックス・コム代表取締役
税金ジャーナリスト
1948年生まれ。税務・経営関連専門誌の編集を経て、2000年に株式会社タックス・コムを設立。同社代表、ジャーナリストとしても週刊誌等に執筆。著書に「住基ネットとプライバシー問題」(中央経済社)など。
http://www.taxcom.co.jp/
○タックス・コム企画・編集の新刊書籍「生命保険法人契約を考える」
http://www.taxcom.co.jp/seimeihoujin/index.html
  
2011.11.21
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