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手根管[しゅこんかん]症候群」告知における留意点
  手根管は手のひら側にあり、横手根靭帯で囲まれた伸び縮みできない3cm程のトンネル状の空間で、その中を1本の正中神経と、指を屈曲させる9本の屈筋腱(指を曲げる腱)が走行しています。何らかの原因でこの手根管が圧迫されることで起きる疾患が「手根管症候群」です。正中神経が圧迫されるため、母指から薬指の中指側半分までにしびれや痛みが指先に向って起こります(残りの薬指の半分と小指は尺骨神経の領域です)。進行すると、母指の付け根が萎縮してくるので、ものをつまむ動作が困難になります。症状は、夜間や明け方に増強するといわれます。
● 原因
  多くは原因が不明の特発性です。圧倒的に女性に多く、半数以上は両手に起こります。キーボード入力等、手首をよく使う人に多く出現します。妊娠や閉経がきっかけとなることもあり、女性ホルモンの乱れによる「腱鞘[けんしょう]のむくみが原因ともいわれています。
  その他、原因となる疾患には、関節リウマチ、糖尿病透析(アミロイド沈着)、アミロイドーシス、骨折、甲状腺機能低下などがあります。構造的な異常が原因となるのは、骨の変形やキーンベック病、変形性手関節症、ガングリオンなどです。
● 診断
  テイネル兆候:手掌の付け根の関節をたたくと指先にしびれが放散します。
  ファーレンテスト:両手の甲を合わせて、手首をしばらく曲げているとしびれが悪化します。単純X線検査では手関節の骨性異常の有無を見ます。
  補助検査としては、筋電図検査や、正中神経の伝導速度を測定することもあります。神経の圧迫やむくみを画像で直接明らかにするためにMRIや超音波検査を行うこともあります。
● 治療
  
安静 患部の使い過ぎが原因の場合は患部を固定して炎症が鎮まるのを待ちます。
薬物療法 痛み止め(NSAID)や神経代謝改善剤(ビタミンB12)を服用します。慢性化した場合や、難治性の場合には手根管内に直接ステロイドを注射することもあります。
理学療法 超音波やレーザー、温熱療法などがあります。
手術 上記の治療が無効な場合や、母指球(手のひらのうち親指側のふくらみ)の萎縮が強い場合には局所麻酔下で、トンネルを形成する横手靭帯を直接切開し、圧迫を解除します。これには、小切開による直視下手根管開放術や、内視鏡を用いた鏡視鏡下手根管開放術などがあります。
しびれや痛みは、術後早期に回復しますが、筋萎縮については数ヶ月〜1年程度かかります。透析例では、アミロイド沈着が原因なので、再発することもあります。
● ご契約をいただく際には
  現在症状がある場合は、将来手術する可能性がありますので医療保険については、部位不担保での加入となるでしょう。既に症状がない場合でも、手術の有無や程度により、一定期間の部位不担保での加入となるでしょう。
  死亡保険に関しては、特に問題ないでしょう。もちろん、原因疾患がある場合は、それに準ずる査定となりますので、原因疾患がないかしっかり確認いただくことが重要です。
  
上田 香十里(かんだ・かとり)
株式会社査定コンサルティング代表取締役
現在、複数の保険専門紙・メディアにて保険医学や告知書の正しい書き方に関する記事を執筆中。近著に「知っておきたい!保険と病気と告知のはなし」(小社刊)、「よくみえる! 医療・先進医療・介護のはなし」(小社刊・共著)がある。また、関連するセミナーを開催、講師としても活躍中。保険会社各社の引受査定支援業務、支払査定支援業務、支払検証、診断書翻訳、関連セミナーなどを行っている。日本アンダーライティング協会会員。日本保険医学会賛助会員。一般財団法人大妻コタカ記念会理事。
http://www.hokensatei.com/
  
2011.12.27
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