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保険金から控除できる保険料は本人負担のみ〜最高裁判決〜
● 一審・二審は納税者勝訴
  以前から注目されていた、「養老保険の満期保険金を一時所得として受け取った場合に、支払保険料の本人負担分に加え、法人負担部分も必要経費として控除できるかどうか」を巡る裁判が最終決着した。
  最高裁(須藤正彦裁判長)は平成24年1月13日、「収入を得るために支出した金額」は一時所得の所得者本人が負担した金額に限られ、それ以外の者、つまり法人が負担した保険料は一時所得には含まれないと判断。納税者が勝訴した一審・二審判決を取り消す逆転判決を下した。
  問題となっていたのは、会社を契約者及び死亡保険金受取人、役員や従業員を被保険者及び満期保険金受取人とする養老保険契約の満期保険金に係る税務だった。会社が負担した死亡保険金に対応する保険料は定期保険料と同様に支払保険料として損金扱い、満期保険金に対応する保険料は被保険者への給与として、やはり会社の損金扱いとなる。この保険契約に基づいて被保険者が受け取る満期保険金は一時所得扱いとなる。
  そこで納税者が、法人負担分も含む保険料全額を一時所得の必要経費として申告したところ、税務署が「法人負担分は収入を得るために支出した金額に当たらない」として否認、更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をしたため、その取消しを求めて提訴したものだった。
  同様の裁判がこれまでも複数起こされており、いずれも一審では納税者が勝訴したが、二審では判断が分かれていた。この最高裁の事件は二審でも納税者が勝訴していた。
● 「収入を得るために支出した金額」は自ら負担して支出したもの
  最高裁は事実関係を整理した上で、所得税法34条2項が定める、一時所得の「収入を得るために支出した金額」に該当するためには、「収入を得た個人が自ら負担して支出したもの」と言える場合でなければならないと解釈。その上で、保険料のうち法人負担部分は所得税法34条2項の「収入を得るために支出した金額」に当たるとは言えず、保険金に係る一時所得の金額の計算の際に控除することもできないと指摘した。
  また、納税者側の請求を認容した原審の判断には、判決に影響を及ぼす明らかな法令違反があると判示した。ただし、過少申告加算税の賦課については正当な理由があるか否かを更に審理する必要があると示唆、控訴審に差戻しを命じる判決結果となっている。
  もう一件、上告中の類似事件があったが(一審:納税者勝訴、二審:納税者敗訴)、こちらも平成24年1月16日に最高裁(金築誠志裁判長)において同様の判決が下されている。
  なお、この生命保険契約の一時所得から控除する負担保険料については、平成23年度税制改正において見直されており、「居住者が支払いを受けた生命保険契約等に基づく一時金に係る一時所得の計算上、その支払いを受けた金額から控除することができる事業主が負担した保険料等は、給与所得に係る収入金額に算入された金額に限る」旨が新たに法令に規定された。
  この改正は、すでに平成23年4月1日以後に支払われるべき生命保険契約等に基づく一時金について適用されており、後は最高裁の判断が待たれていた。
資料:2012(平成24)年1月13日最高裁判決の全文
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20120113153829.pdf
  
浅野 宗玄(あさの・むねはる)
株式会社タックス・コム代表取締役
税金ジャーナリスト
1948年生まれ。税務・経営関連専門誌の編集を経て、2000年に株式会社タックス・コムを設立。同社代表、ジャーナリストとしても週刊誌等に執筆。著書に「住基ネットとプライバシー問題」(中央経済社)など。
http://www.taxcom.co.jp/
○タックス・コム企画・編集の新刊書籍「生命保険法人契約を考える」
http://www.taxcom.co.jp/seimeihoujin/index.html
  
2012.01.23
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