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「振り込め詐欺」は雑損控除の対象外との裁決
● 納税者は「振り込め詐欺」の損失は雑損控除の対象と主張
  警察庁の発表によると、2011年に確認された、いわゆる「振り込め詐欺」は6255件で、前年よりも約6%減少したものの、いまだ高水準にある。特に、親族や警察官、弁護士などを装って電話をかけ、口座を指定して現金を振り込ませたり、直接被害者宅に受け取りに行くなどして現金をだまし取る「オレオレ詐欺」が増加傾向にあるという。2011年に確認されたオレオレ詐欺は4628件にのぼり、振り込め詐欺全体の約74%を占める。
  ところで、国税不服審判所はこのほど、「振り込め詐欺の被害に遭い、だまし取られた金額分の損失は、雑損控除の対象とはならない」とした事例を公表した。
  所得税法第72条に規定する雑損控除は、同条第1項により、「居住者またはその者と生計を一にする配偶者その他の親族で政令に定めるものの有する資産について、災害または盗難もしくは横領による損失が生じた場合において」適用するものである。
  この事例は、納税者が振り込め詐欺の被害に遭い、だまし取られた金額分の損失が、雑損控除制度の趣旨・目的に照らせば所得税法第72条《雑損控除》第1項に規定する「災害または盗難もしくは横領」による損失、または「災害」による損失、「盗難」による損失もしくは「横領」による損失のいずれかの損失に当たる旨を主張して、税務署に申告したが、認められなかったため、審判所に判断を仰いだものだ。
● 裁決は「災害」、「盗難」、「横領」のいずれにも当たらないと判断
  裁決では、「災害」、「盗難」、「横領」はいずれも別個の概念とした上で、 (1)詐欺の犯人が指定した口座に振込送金した請求人(=納税者)の行為自体が、請求人の意思に基づいたものなので、この損失は「災害」による損失に当たらない、(2)「盗難」の意義は「財物の占有者の意に反する第三者による当該財物の占有の移転」と解されるが、各振り込みが請求人の意思に基づいてなされているため、この損失は「盗難」による損失に当たらない、と指摘した。
  さらに、(3)「横領」の意義は「他人の物の占有者が委託の任務に背いて、その物につき権限がないのに所有者でなければできないような処分をすること」と解されるが、請求人が振り込んだ金銭に対する所有権は各振り込みを終えた時点で、その金銭に対する占有とともに詐欺の犯人側へ移転したと認められ、その犯人はそもそも請求人の物の占有者ではないから、この損失は「横領」による損失に当たらないとした。
  これらのことから、この事例における損失は、所得税法第72条第1項に規定する「災害または盗難もしくは横領による損失」には当たらないとして、請求人の主張を斥けている。
  
浅野 宗玄(あさの・むねはる)
株式会社タックス・コム代表取締役
税金ジャーナリスト
1948年生まれ。税務・経営関連専門誌の編集を経て、2000年に株式会社タックス・コムを設立。同社代表、ジャーナリストとしても週刊誌等に執筆。著書に「住基ネットとプライバシー問題」(中央経済社)など。
http://www.taxcom.co.jp/
○タックス・コム企画・編集の新刊書籍「生命保険法人契約を考える」
http://www.taxcom.co.jp/seimeihoujin/index.html
  
2012.01.30
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