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「100年安心の年金制度」はどこに消えた?
  昨年より検討が続いている、「社会保障と税の一体改革」の内容を見て「やはり改革は仕方ないことなのかな」と思っている人も多いだろう。
  しかし、わずか7年前に改正された公的年金制度の改革の経緯を覚えている人は「平成16年当時の改革はいったいなんだったのだろう?」と思うはずだ。
● 平成16年当時は「100年安心の年金制度」と言われていた
  ご存知のとおり、公的年金制度は昭和36年に国民年金制度が発足し、国民皆年金となった。その後、様々な修正を加えられながらも、昭和61年に全国民が加入する老齢基礎年金が制度化され、第3号被保険者制度もスタートして女性の年金権も確立された。
  そして、平成16年に少子高齢化の進展した社会に対応した現在の年金制度に改正されたことは記憶に新しいところだ。
  このときに政府から我々国民にアナウンスされた言葉は「100年安心の年金制度」だった。
● どんな改革だったのだろう?
  では、その平成16年の公的年金制度の改革とはどういったものだったのだろう。
  まず、それまでの公的年金制度は、年金の給付額が決まって、それに応じた保険料の額が決定されていた。そのため、現役世代が負担する保険料の額が「際限なく多くなる」という懸念があった。そこで、保険料水準固定方式というものを導入し、国民年金の保険料は平成29年度に16,900円(平成16年度価格)、厚生年金保険料率は平成29年9月より18.3%(労使折半)とすることになった。
  これが身銭を切る保険料の改革だとすると、老後に受け取る年金額については「マクロ経済スライド」という年金目減り策が取り入れられた。
  ただ、このマクロ経済スライドによる年金目減り策は物価や賃金水準の上昇が前提で、デフレ経済化では目減り策が発動されない条項が盛り込まれていたために、現在にいたるまで一度も効果を発揮することなく推移してしまっている。
  平成16年の「100年安心の年金制度」
    ・ 保険料水準固定方式による負担の抑制
    ・ マクロ経済スライドによる給付の削減
⇒実態は保険料が上昇したのみで、マクロ経済スライドは機能せず    
● 今回の改革で検討されているものは?
  今回の「社会保障と税の一体改革」で検討が予定されている主なものを列挙しよう。
   所得比例年金と最低保障年金の新しい年金制度の創設
   新しい年金制度が確立するまでの最低保障機能の強化
  →低所得者への一定の加算
  →障害・遺族基礎年金への加算
  →受給資格期間の25年から10年への短縮
   高所得者の年金給付の引下げ
   厚生年金、共済年金の一元化
   マクロ経済スライド検討
   標準報酬上限の引上げ
  これらの中には、我々に負担を強いるものもあるが、一方では給付の拡大となるものもあり、一概に「台所事情が厳しいから皆さん倹約してよ!」と言っているわけでもない。消費税を引き上げないと年金財政がまかなえないというのであれば、このような一貫性のない改革に理解を示せというのも少々無理がある。
● 孫やひ孫に胸を張れるのか?
  今回の改革において、年金受給世代と現役世代の人口比率をたとえて、『半世紀前には9人で1人を支える「胴上げ」型の社会で、近年は3人で1人の「騎馬戦」型の社会となり、将来には1.2人に1人を支える「肩車」型の社会が到来する』とされている。そのため、改革はやむなしとの論法だ。しかし、この人口構成の推移は過去にも十分に予想されていたことであり、これを改革の理由にするのはいかがなものだろう。
  自民党政権から民主党政権に変わったとはいえ、わずか7年後に現行制度へ落第の烙印が押されるというのは、厚生労働行政に一貫性がなさ過ぎるせいだろう。これが一般の事業会社だったら、「100年にわたって当社の財務状況は安心ですよ!」と言っておいて「7年経ったら状況も変わってしまったので仕方ありません」という言い訳は通用するだろうか。
  今回の改革が、孫やひ孫の世代に胸を張れる内容なのかどうか、皆さんにも是非考えていただきたいところである。
2012.02.06
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