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相続の承認・放棄 ―熟慮期間の起算点とは?―
  最近、筆者の周辺で相続に関わる問題が発生した。莫大な遺産を前にその分割に苦慮している、という話ならいいのだが、実際は相続財産としての債務が問題であった。そこで、今回は相続人の残した債務について相続放棄ができるか否かという問題について解説する。
  民法では、相続の承認・放棄について「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない」と定めている。3カ月の熟慮期間内に、被相続人の財産や債務の状況等を考慮し、相続を承認するか放棄するか、承認する場合は単純承認するのか限定承認するのかを決めなければならない。3カ月間何も手続きをしないままでいると、相続を単純承認したものとみなされる。
  相続財産が現預金や有価証券等の積極財産のみの場合は、単純承認しても問題はない。しかし、被相続人の債務が積極財産を上回っている場合には、相続を放棄する、あるいは限定承認することを考える必要がある。もちろん、債務を考慮に入れた上で単純承認する場合もあるだろう。
● 被相続人の死亡後に判明した債務の存在
  今回は以下の事例を紹介する。
  被相続人の家族構成は配偶者と子で、その他に兄Aと妹Bがいる。被相続人甲と兄A、妹Bの両親は相続開始時点で既に死亡している。
  被相続人甲は50代後半に病気で亡くなった。A、Bは遠方で生活していたが、甲の通夜・葬儀には出席した。親族が集まった席では、乙から特に相続についての話は無かった。
  その後、半年ほど経過してからA、Bのもとに銀行から内容証明郵便が届いたのである。その内容は次のとおりであった。
  「甲はある会社の債務について連帯保証をしていたが、その会社は既に倒産しており、甲は保証債務を履行する必要がある。甲の配偶者乙および子丙は相続を放棄しており、次順位の相続人であるA、Bにその履行を求める。」
  A、Bは当然、甲の死亡について知っている。熟慮期間の3カ月は既に経過していると考えると、既に相続放棄をすることはできず、債務を相続しなければならない。A、Bになすすべは無いのだろうか。
● 「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは
  結論を先に言うと、A、Bは相続を放棄することができた。次のような理由によるものである。「自己のために相続の開始があったことを知った時」とは、言い換えれば「自分が相続人であると知った時」であり、A、Bは銀行からの内容証明郵便によって、先順位の相続人(乙・丙)が相続を放棄したこと、結果として自分が相続人となったことを知った。熟慮期間の3カ月はこのときから進行するため、相続放棄ができる期間は満了していなかったのだ。
  A、Bは法律相談を利用して弁護士に見解を尋ねたところ、上記の趣旨の回答が得られた。その後、家庭裁判所に手続方法について問い合わせたうえ、相続放棄の申述を行い、無事に受理された。
  申述先は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所である。遠方であったため問い合わせは電話で行い、手続きも郵送で済ませることができた。家庭裁判所からは、「事案の内容によっては申述した人を呼び出すこともある」とのことだったが、このケースでは特にそういったこともなかった。申述書には相続放棄に至る詳細を記入し、被相続人との相続関係がわかる戸籍謄本や銀行からの内容証明郵便の写しなどを添付した。
  手続きが完了した後は、相続放棄の申述が受理された証明書を銀行に送り、債務についての手続きも完了した。
<補足>
  今回の例では、兄Aの子であるCはA、Bが相続放棄をした場合、Cの相続人とはならないため、A、Bの相続放棄と別に相続放棄の手続きをする必要は無い。
  ただし、注意すべき点としては、似たような事例であっても、微妙な事実関係の違いにより、結論が大きく異なる場合がある。そのため、個別の事案については専門家に相談する必要がある。
2012.02.20
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