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貸付の規模で変わる不動産所得に要注意!
● 事業的規模は“5棟10室”で判定
  2011年分所得税の確定申告が16日、全国一斉にスタートした。「今年こそはミスなきよう」と身構える納税者も多いようだが、肩肘を張らずに自然体で申告書をチェックしたい。
  まず、不動産所得がある場合、事業的規模かどうかは、
   (1)  貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上あること、
   (2) 独立家屋の貸付けでは、おおむね5棟以上
  の、いわゆる“5棟10室”で判定する。
  課税上の取扱いの差異をみると、資産損失(取壊し、除却、滅失等)では、「事業的規模」の場合、損失の金額(原価ベース)を損失の生じた年分の必要経費に算入する。「事業的規模に至らない規模」では、損失の金額(原価ベース)を損失の生じた年分の不動産所得を限度として必要経費に算入する。ただし、災害等による損害は、選択により雑損控除の対象とすることができる。
  また、貸倒損失をみると、「事業的規模」の賃貸料の貸倒損失は、貸倒れが生じた年分の必要経費に算入する。「事業的規模に至らない規模」では、賃貸料等の回収不能による損失は、その収入が生じた年分にさかのぼって収入金額がなかったものとみなす。収入がなかったものとみなされる金額は、
   (1)  回収不能金額
   (2) 所得税法64条(資産の譲渡代金が回収不能等となった場合等の所得計算の特例)適用前の課税標準の合計額
   (3) (2)の計算の基礎とされた不動産所得の金額、のうち最も低い金額となる。
  そのほか、「事業的規模」では、青色事業専従者給与のうち相当なものは、その年分の必要経費に算入する。また、事業専従者控除として1人最高50万円(配偶者である専従者は86万円)を必要経費に算入する。一定の要件を満たす場合に最高65万円の青色申告特別控除が受けられる。
  一方、「事業的規模に至らない規模」では、青色事業専従者給与、事業専従者控除とも適用はないが、青色特別控除のみ最高10万円の控除が受けられる。
● 共有持分でも事業的規模の判定は全体で
  このように、不動産所得は、「事業的規模」か「事業的規模に至らない規模」かどうかで課税上の取扱いが変わるが、まだまだ誤りやすいポイントが多々ある。
  例えば、賃貸用不動産を相続により取得し、年の中途で遺産分割が行われた場合、その年分の不動産所得の計算を分割後の相続分で計算していたら?これは、遺産分割が行われるまでの所得は、法定相続分により計算することになるので注意が必要だ。
  次に、アパートが2人以上の者の共有とされている場合、貸付の規模を共有持分で按分した後で判定しているケースがある。これは、不動産が2人以上の者の共有とされている場合であっても、その不動産の全体の貸付の規模で判定する。また、貸室8室と貸地10件がある場合、事業的規模かどうかの判定を貸室のみでしているケース。ここでは、1室の貸付に相当する土地の貸付件数を「おおむね5」として判定する。
  そのほか、事業的規模の貸付を行っていないのに、専従者給与(または控除)及び65万円の青色申告特別控除を適用しているという誤りがある。専従者給与(または控除)及び65万円の青色申告特別控除額は、事業的規模の貸付の場合にしか控除(適用)されない。不動産の貸付を事業的規模で行っていないが、他に事業所得がある場合、65万円の青色申告特別控除額の限度額は、不動産所得の金額から先に控除することとなる。
  
浅野 宗玄(あさの・むねはる)
株式会社タックス・コム代表取締役
税金ジャーナリスト
1948年生まれ。税務・経営関連専門誌の編集を経て、2000年に株式会社タックス・コムを設立。同社代表、ジャーナリストとしても週刊誌等に執筆。著書に「住基ネットとプライバシー問題」(中央経済社)など。
http://www.taxcom.co.jp/
○タックス・コム企画・編集の新刊書籍「生命保険法人契約を考える」
http://www.taxcom.co.jp/seimeihoujin/index.html
  
2012.02.20
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