> 今週のトピックス > No.2393 |
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「AIJ投資顧問」の年金消失事件から私たちが学ぶこと | ||||||||
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![]() ● 「虚偽の運用報告」
投資運用会社の「AIJ投資顧問」が、企業年金から運用を委託された年金資産2,000億円のほとんどを消失させた。投資運用会社とは企業や個人の資産を運用する会社で、大手証券系、信託銀行系、外資系などがあり、日本証券投資顧問業協会には246社が加入している。昨年9月末時点の契約資産は150兆円ほどあり、日本の個人金融資産の1割程度にあたる。
新聞報道をみると、AIJ社の提出した事業報告書からデリバティブ(金融派生商品)などで運用していたことがわかるが、おそらくは運用失敗による損失が大きくなったのだろう。ただ、実際は運用実績がマイナスであったにも関わらず、運用で利益を上げた場合に得られる成功報酬を顧客の年金基金から受け取っていたことが証券取引等委員会の検査でわかった。実際には、同社は運用当初も損失が出て、リーマンショック以降は約1,000億円の損失を出していたが、毎年7%以上の運用益が出ていると年金基金運用担当者に虚偽の報告をしていた。 ![]() ● 「わかりにくい資金の流れ」
今回の流れをみてみると、同社はまず顧客と企業年金資産の投資一任契約を結び、その後、配下の「アイティーエム証券」を通じて英領ケイマン諸島の特定ファンドに資金を移す。同社はケイマンに入った資金を英領バミューダの信託銀行を通じて運用する形式を取っていたが、実質的には香港の大手銀行に移していたことが判明している。海外での資金運用に詳しい証券関係者は、「タックスヘイブン(税制上優遇措置が与えられている国や地域)のひとつであるケイマン諸島には多くのペーパーカンパニーがあり、運用実態は分かりにくい。その上、海外の複数の金融機関を介して資金を運用すれば、金融当局の監視は困難になる」という。このようなことから、金融庁の目をすり抜けることを目的として複雑化したようである。
![]() ● 金融庁は「規制強化へ」
この事件をふまえ、金融庁は投資会社に監査法人などによるチェックを義務付け、監視を強化することにした。また、金融庁は投資会社のみならず、上場していない証券会社にも外部監査を義務付けることを検討する。投資運用会社などが虚偽の運用実績などを報告した場合には罰則を強める方向だ。
私たちの会社にも私募ファンド、オルタナティブなどの金融商品を取り扱ってくれないかという依頼は多いが、クライアントに迷惑をかけてしまっては元も子もなくなるので、取り扱わないようにしている。 AIJ投資顧問の年金資産消失事件で私たちが学んだことは、数年前に起きたリーマンショック後の金融危機、最近の欧州不安、急激な円高、株安、東日本大震災、原発問題などのあらゆるリスクに対応でき、運用利益が上がる手法などないということである。今回のケースでは、同社の運用報告がおかしいことに気づき、契約を解除した年金基金の担当者も中にはいたようだ。虚偽の報告書を真に受け、目先の高い利回りに目を奪われてしまった年金資金の運用担当者の“目”を養うことが重要ではないだろうか。
(内容は3月6日執筆時点のものです)
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2012.03.12 |
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