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政府の後押しでリバ−ス・モ−ゲ−ジ制度の普及なるか
  厚生労働省は、2002年度から高齢者に対して不動産を担保に生活資金を貸し付ける「リバ−ス・モ−ゲ−ジ制度」を新設することを決めた。リバ−ス・モ−ゲ−ジ制度とは、高齢者が自宅を担保にして、そのまま住み続けながら生活資金などの融資を受ける仕組みのこと。原則として、契約者の死亡などで契約期間が終了すると、不動産を売却して元利合計額を一括返済することになる。通常の住宅ローンでは最初に一括してお金を借り、少しずつ返済していくことで契約終了時には資産価値が自分のものになるが、それとは正反対の仕組みということで「リバース(逆)」という名が付けられている。
  一般的に、高齢者は住む家はあっても公的年金以外の現金収入が少ないケースが多い。これから少子高齢化が進めば公的年金の受給額が減ることは避けられず、高齢者の生活不安は高まっている。リバース・モーゲージ制度を利用すれば、自宅に住みながら月額6〜10万円程度の現金収入を得ることが可能であり、公的年金の上乗せとしての機能が期待できる。
  実は、リバース・モーゲージ制度そのものは特に目新しいものではない。1960年代にアメリカで生まれてから、国内では1981年に武蔵野市が導入し、現在では全国で18以上の自治体が同制度を導入している。だが、バブル崩壊とともに利用件数は頭打ちになり、いまでは1年に1件の利用もない自治体もあるぐらいだ。
  制度の利用が進まない理由としては、次のことが考えられる。
  • 対象となる不動産が限定されている。融資対象となるのは、原則として土地評価額が2,000万円以上で住宅ローンを完済した物件。マンションは不可の場合が多い。
  • 利用にあたっては高齢者の法定相続人の全員の同意と連帯保証人が必要なため、家族の反対に遭い断念する例が多い。
  • 高齢者側に「子どもに家を残してやりたい」という思いが強く、不動産の売却に対する抵抗感が強い。
  • リバース・モーゲージを利用すると、高齢者の死後、遺族に不動産の相続税が課せられるが、不動産そのものは遺族のものにならないという矛盾がある。
  • 高齢者が予想以上に長生きした場合、途中で融資限度額に達し、融資が打ち切られる可能性がある。
  融資する側にとっては、融資期間が長いため途中で不動産価格が下落し、担保割れのリスクがある。アメリカでリバース・モーゲージ制度の利用者が急速に普及したのは、それらのリスクをカバーするための保険制度がきちんと整備されたことが大きい。日本でも同制度の普及を図るためには、早急に利用者と金融機関のリスクを減らし、利用しやすくなる仕組みを作る必要がある。
  政府が今回リバース・モーゲージ制度の新設を打ち出したのは、行政が支援する仕組みを作ることで利用者の拡大を促進することが狙いだ。新制度では、いままでのように自治体任せではなく、都道府県の社会福祉協議会を通じて積極的に全国普及を図っていく。リバース・モーゲージ制度が一般化すれば高齢者の生活不安が後退し、消費に好影響を与えることで景気拡大につながるとの思惑もあるようで、厚生労働省では今後の様子を見ながら支援の拡大を図っていく構えだ。高齢化社会がますます進む中で、これからの成り行きが注目される。
(マネーライター 岡崎 桂子)
2002.01.08
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