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インターネットのUG(アンダーグラウンド)  著作権問題  Vol.2
  インターネットのヘビーユーザーに人気があるモノとして、UG(アンダーグラウンド)のコミュニティーがある。マスコミには載らない裏情報や著作権、肖像権を無視してファイルを載せたりするアナーキーなサイトだ。そんなUGの中にはいくつかの「warezサイト」がある。WinMXなどのファイル交換ソフトの登場前は、「warezサイト」が海賊版ソフトを配布、交換する場として中心となっていた。warezとは、コピープロテクトを解除したゲームや映画、音楽、ソフトなどのデジタルコンテンツを総称する「Web語」。Softwaresのwaresから来ている造語で「ウェアーズ」と読むが、日本では「われず」と呼ばれることが多い。このサイトは技術力のあるプログラマーがたくさん参加してると思われる。当然違法行為で摘発されたり、プロバイダーから削除されたりして消滅するものも多いが、サイトのアドレスを頻繁に変更したり、新設したりすることで、その数が減ることはない。
  摘発を避けるために運営者、参加者もさまざまな工夫を凝らしている。リンクが貼られているか簡単には分からない隠しページを置いたり、サイト上の画像に分割して拡張子を変えた偽装ファイルを仕込ませたりして、利用者もある程度の知識がないとダウンロードしても容易には使えない。ブロードバンド化が進むにつれて、FTPサーバーを自前で建て、神出鬼没に行うものも少なくない。国際的なテロリストの情報交換にも、これらの手法が使われたのではとみられている。また海賊版ソフトの販売組織も、これらのwarezコミュニティーを利用している。gooやGoogleで検索してみても、膨大な数の関連サイトが引っかかる。
  2001年12月半ば、米国史上過去最大規模の一斉捜索が行われた。米関税局、FBI、米国防総省の国防犯罪捜査部(DCIS)は米司法省と各国の司法当局の協力を得て、世界中のwarezコミュニティーに対して個別に捜査を進めていた。英国、オーストラリア、フィンランド、ノルウェーの捜査当局との合同で行われた摘発で、大規模なwares組織の一つが壊滅した。全世界で130台以上のコンピュータが押収された。FBIがおとり捜査作戦として運営していた偽のwaresサイトでは、14万4000以上のプログラムがアップロード、ダウンロードされていたという。
  それでも、このようなwaresコミュニティーがなくなることはないだろうと思われる。残ったwares組織は、より地下に潜ることになり、自己防衛のために、サイトを外部からアクセスできないようにする傾向が高まると予測される。実際、今では多くのwaresサイトがパスワード保護を取り入れている。
  waresコミュニティーがなくならない背景には、多くの擁護派、賛同者の存在もあるだろう。これらの組織が利益のために海賊行為を行っているわけではないからだ。参加者たちは「フリー・インターネット」を信じており、規則や法に自分たちの行動を縛られたくないと思っている。ギブ・アンド・テイクや共有ということを大事にしているので、DOM(Download Only Member:ダウンロードしかしない人)や販売行為は嫌われる。フリーソフトの開発と似たボランティア的な要素もある種感じられる。前回紹介したWinMXの逮捕者に対しても、DOMやケチケチしたユーザーは助かり、「共有なんだからだれでも持っていっていいよ」という姿勢の人が泣きをみた理不尽な結果だ、と同情的な声が関連サイトの掲示板で見られる。
  また、既存の著作権や特許システム自体を批判的に見る意見もある。市販ソフトの価格が高すぎる。安ければ、わざわざ海賊版を作る必要がない。(Internet Explorerが無料配布で、Netscapeのシェアを奪ったように)ソフトによっては違法コピーであっても、大量に普及することで業界スタンダードとなり、マーケットのシェア拡大に貢献している面もある。著作権や特許は既存のビジネス業界を保護するだけで、作者の保護や評価に直接つながっているとはいえない。行き過ぎるとむしろソフトの開発・発展や普及の妨げになるなどだ。
  そんな中、音楽・映画などのコンテンツをインターネットで有料配信する事業が米国で本格的に進んでいる。ソニー系の「プレスプレイ」とワーナー・ミュージック・グループなどによる「ミュージック・ネット」だ。ハードの商品を扱うeビジネスと違い、ソフトを商品とするサービスをどのように定着させ、どのように効果的な課金、料金回収するのか。ライバルにも海賊行為にも勝ち抜けるのか不透明な要素が多く、そのハードルは高そうだ。
(フリーライター  志田  和隆)
2002.01.08
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